第92話 剣を収め耐えるのだ
俺達ルイパーティーを乗せた飛空艇ミューズ号は、イーリアスの転職をする為に、マーダ神殿へと向かった。
南東の方角へと、遮る物のない広大な海の上空をどんどん突き進んで行く。
星の瞬く夜空が濃紺から徐々に色が変わっていき、遂には金色の夜明けで空と海を塗り変えていく様子には、自然と涙があふれてくる程感動した。
世界はなんと美しいのだろう。もう一度人生を歩めて、仲間と共にこんな絶景を見る事ができるなんて、俺は今とても幸せだ。
大事なモノをあえて無くした状態にしてきやがった事には思うところはまだあるが、普通ではあり得ない転生という経験をさせてくれた、のじゃロリ女神には最近感謝している。
男には大魔王を倒してから戻れば良いのだし。
マーダ神殿にもっとも近付いた所で飛空艇ミューズ号を着陸させて、俺達パーティーを降ろしてもらった。ここからはチョコザでの移動になる。
しばらくチョコザで爆走すると、特に問題無くマーダ神殿へとたどり着いたので、前回の時と同じように転職希望者の列へと並んだ。
あれ!? 俺達の前にいるのは、またもや、ぴちぴちギャルになりたがっていた爺さんとおっさんの二人組じゃないのか? 良く似た別人なのだろうか?
ようやく俺達の順番がやってきた。立派な祭服を纏ったお爺さん神官、大神官テンチョクの前に立つと転職イベントの開始だ。
「マーダ神殿へようこそ。お、お主は······『もつっ娘』のルイ!? まさかいよいよ生やしにきおったか!? 前も言うたが流石のマーダ神殿でも性転換は無理じゃぞ!? お主達、ちょっと儂の後をついて来なさい」
大神官が一瞬フリーズしてしまったが、すぐに再起動した。
なんだよ『もつっ娘』って。
ひどい言われようだな。
大神官テンチョクは別の神官と転職係を交代して、俺達を別室へと案内してくれた。立派なソファに大神官と向かい合って座ると、早速大神官が話を切り出してきた。
「して、今回は何用かな? ハヤスノハムリジャゾ」
「今回は私の転職をしにきたのだ」
イーリアスが大神官に告げると、大神官は深く頷いた。
「そうであったか。お主はユニークジョブ暗黒騎士じゃったな。確か転職先で選べるのは一つのみじゃった。しかし、そのジョブに就くには試練を突破せねばならぬ。試練を受けるか?」
「ああ、お願いしたい。」
「あいわかった。儂について来なさい」
別室を出た大神官に案内されて、山頂への石段を二時間ほど登って行くと、小ぶりな神殿の姿が見えて来た。
「ここに入るのじゃ。伝承によると、お主が今から受ける暗黒騎士の試練とはかなり厳しいものであるらしい。しかしその試練を乗り越えればユニークジョブの聖騎士となる事が出来る」
この試練を突破したらイーリアスは聖と魔を操る事ができるんだよな。
「ただし、失敗した場合には闇に飲み込まれ、正常な意識を失った祭騎士に堕してしまう事となる。それでも良いのだな?」
祭騎士か、俺は失敗して祭騎士になった事は無かったが、ゲームの掲示板では「バーサーカーの劣化版、最悪過ぎてワロタw」等と性能が低すぎるジョブという書き込みがいくつかあったな。
「無論だ。どのみち今のままでは、魔王軍の幹部ミスドジードに付け込まれる隙を抱えたままとなる。試練を突破しなければ胸を張って皆の仲間とは言えん」
「うむ。その覚悟やよし。ではそのまま一人で奥に進むのじゃ。よいか、伝承にはこうある。『剣を収め耐えるのだ』と。儂にはなんの事だかわからぬが、お主が自らの未来を切り拓く事ができるのを祈っておるぞ」
イーリアスが一人で奥の舞台へと進んで行く。
「イーリアス! いいか、耐えるんだぞ! 勝機は耐える事でしか見出せないからな! 絶対耐えろよ!」
「うん? 分かった、心に留めておこう」
この先の舞台に上がる時に、脳内の記憶までコピーされてしまうらしいから、具体的なアドバイスをする事ができないのはもどかしいな。
イーリアスが舞台に上がると、四方からイーリアスに向けて光が照射された。しばらくするとその光が頭上でまとまり、ふわふわとイーリアスの十歩程先に移動した後に、寸分違わぬイーリアスの姿が現れた。
なんと装備までが瓜二つだ。暗黒騎士の試練の対戦相手とはイーリアス自らの完璧なるコピーだ。
鏡写しの様な瓜二つの二人のイーリアスが、同時にコクリと頷き合うと「「いざ尋常に勝負!」」と決闘を開始した。
舞台上を所狭しと、お互いの魔剣フォルバガードで斬り結び、『暗の剣』『黒の剣』『あんこく』といった暗黒騎士スキルも適切なタイミングで二人ともばんばん使っていった。
どのくらい時間が過ぎたのだろうか。二人のイーリアスの瞬きする間もない程の戦いは、一向に衰えない。流石は継戦能力に定評のあるイーリアスだ。
更に時は過ぎていき、遂にお互いに肩で息をする程に消耗してきていた。どうしても相手を滅ぼさなければならないと、焦る気持ちが心を支配したのか、二人のイーリアスが突如として暗黒パワーを渦巻かせると、一気に自身へと吸い込んだ!
またしても全く同じタイミングだ!
イーリアスの最後の手段、自爆だ!!
きた!
「イーリアス! 耐えろ! 耐えるんだ!」
「イーリアスさん!」
「リアお姉ちゃん!」
エリーとシーラも声援を送る!
お互いに相手を羽交い締めにすると、膨れ上がる暗黒パワーが遂に臨界点を越えて爆発した!
爆発したとたんにイーリアスの姿が掻き消えた!
いや! 自爆したのは一人だけだ!
一人はその場で立ち尽くしている!
目まぐるしく入れ替わって、もはやどちらが本物のイーリアスかもわからない。
生き残ったのはどっちだ!?
生き残ったイーリアスに再び四方から光が照射され姿が見えなくなった。集まった光が一際まばゆく輝くと、黒を基調としていたイーリアスの平氏装備が、輝く純白に塗り替わっていた。
ホーリーナイトか、パーリーナイトか、どっちだ!?
「ルイ……自爆の衝動に耐えきったぞ」
ホーリーナイト!
聖騎士イーリアス爆誕!!
実はこの試練は一言で要約すれば、最後まで自爆の衝動に耐えきれるかの試練なのだ。自爆衝動のチキンレースとも言えるか。まあこの場合はきちんとブレーキをかけたほうが勝者となる事が出来るのだが。
「暗黒騎士の隠れ里で身につけた『暗黒の極み』が役に立ったぞ」
「そうか、良かった。試練を無事に乗り越えられてほっとしたよ。おめでとうイーリアス!」
今夜は豪華にお祝いのパーリーだぜ!
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