閑話 一方その頃勇者パーティーは・・・その9
真っ白な世界で、何かに呼び掛けられている様な感覚を感じ取った勇者アイスの魂はゆっくりと目をあけた。
「……。……勇者よ」
どことなく幼い感じのする声が背後からかすかに聞こえてきた。
「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」
「……?? どこだここ? ルイ達と戦っていたのは夢だったのか?」
「夢ではないぞ、勇者アイスよ。お主の魂は深く傷付き、最早死んだも同然なのじゃ」
その言葉に振り返ると、神々しい光をまとった、見たことも無い服装の可愛らしい幼女がいた。
「誰だ!? 死んだも同然ってどういう事だ!? じゃあ今の俺はなんなんだ!?」
「妾は神じゃ。今のお主は魂だけの存在じゃよ。ここは魂の世界じゃ」
神だと!? この眼の前の『のじゃのじゃ』言っている幼女が? ちょっと信じられないな。やはりこれは夢なんだろう。
「お主の考えておる事は全てまるわかりじゃぞ。もう一度言うが、妾は神じゃからな。のじゃのじゃとは酷い言いぐさじゃのう」
む!? 今、何を考えているかバレてるのか!?
「うむ、バレバレじゃ。心が読めておるから言葉だけで取り繕わんでもよいぞ。少しは信じる気になったか?」
「俺とルイ達との戦いはいったいどうなったんだ? 良く思い出せない。はっ!? ローザはどうなったんだ!? ネアは!? 死んだのか!?」
「どうやらお主は呪いの仮面を無理やり外したショックで、何も覚えておらぬようじゃのう。どれ、どうなったか見せてやろう」
真っ白な空間に、アイスが超人魔王としてルイ達と戦った一部始終が映し出された。
「あああぁぁぁ、やはりネアは死んでいるのか! ローザは!?」
映し出された映像の場面が切り替わり、現在の外の様子が現れた。
「勇者様、どうか、どうか元気に戻ってきてください」
「アイスよ、お前を止めきれなかった俺を殴っても構わん。早く戻って来い」
「勇者君、これだけ二人に思われているんだからさっさと復活して来なさい! お姉さんが二度とこんな事にならない様にビシバシしごいてあげるから!」
ローザ、ゴライア、そして知らない人が三者三様に、一心不乱に勇者の帰還を待ち望んで祈っていた。
「ローザ、ゴライア……神よ、ネアは、ネアは俺を最初から裏切っていたのか?」
「うーむそれはネアにしかわからん。ここにおれば心を読むことも可能じゃが、もうおらんからのう。ただ大魔王デスジードの居城での事はわからんが、過去のそれぞれの街での夜の事はわかるぞよ」
様々な街でネアが夜の酒場で情報収集しつつ、魔王軍に情報を横流ししている様子や、アイス自身を蝕んだ呪いの仮面を死影衆の部下から受け取っている様子が映し出された。
「ネア、やはり裏切っていたのか……だが俺はそれでもお前を愛していた……」
「純情じゃのう。初めて抱いた女は忘れられんか。お主は男ぶりも良いし勇者なのじゃし、もっと多くの女と懇ろになっても良いのではないかのぉ。知っておるか? 妾が元々担当しておる世界では殆どの勇者がハーレムを築いてちいとで無双しておるのじゃぞ」
「ちいと? 良くわからんが、俺はもうローザだけで良い」
「む! それはいかんぞ。良いか勇者アイスよ。神託をくだそう。実はルイはな、妾がお主と娶せようとこの世界に連れてきた存在なのじゃ。二番目でも三番目でも良いのでしっかりと妻に迎えるのじゃ」
「むぅ、そうなのか?」
「そうなのじゃ。さてそれではそなたに妾からちいとを授けよう。今後努力すれば、人間のまま超人魔王の時の力を得る事が出来るようにしておいてやろうかの」
「おお! それはありがたい」
「どれ、この後は外の世界のお主の仲間が、真剣に祈れば復活できるぞよ。復活の呪文を仲間達には与えてやろう」
再び今現在の外の世界の様子が真っ白な空間に映し出された。
何も無かったはずの三人の頭上から、一枚の紙がひらひらと舞い落ちて来た。
「何だこれは?」
ゴライアが不審に思い拾い上げた紙には、
「ゆうて いみや おうきむ
こうほ りいゆ うじとり
やまあ きらぺ ぺぺぺぺ
ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ
ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺテヘ ぺロ」
と書いてあった。
ローザが首を傾げながら読み上げてみると、突然台座に横たわっていた勇者アイスの肉体に光が降り注いだ!
勇者アイスの魂は、グインと頭から引っこ抜かれるような感覚と共に、真っ白な世界から引きずり出された。
真っ白な世界は再び静寂に包まれた。
「くっくっくっ、くはははは。行ったか? いや、ほんにのう? これでルイは勇者にも尻を追い掛け回される様になるかのう? くふふふ。楽しみじゃのぉ。ルイが男にモテモテになる姿を想像すると笑いが止まらんのう! くっくっくっ、くはははは!」
白い空間がゆらぎ始めた。
「面白かった!」
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