第88話 桃色彗星
カエル勇者ケオルグのスキル『丸呑み』を使う事で、斬り落とした触手を安全に処理する事が出来た。
だが、未だ十本ある触手のほんの先端を処理したに過ぎない。クラーケンの巨大な本体は無傷のままだ。
クラーケンの触手攻撃は留まるところを知らない。時にムチのように振り回し、時に槍のように突き刺し、また時には吸盤から毒液を放出してきたりもした。
本体に近づくのは相変わらず至難の業だが、斬り落としては丸呑み、斬り落としては丸呑みと、繰り返す内に、少しずつではあるが触手が短くなっていった。
根比べの様な攻防が続く中、突然クラーケンが『大渦』を使ってきた!
まずい!
水属性攻撃は装備の力で吸収しているので問題ないが、全員が大渦に巻き込まれて陣形が完全に乱されてしまった!
今クラーケンの一番近くにいるのはエリーだ。そのエリーに向かって触手が伸びる!
ガシッ!
辛うじて『護る!の腕輪』の発動する効果範囲だったようで、俺が触手とエリーの間に自動的に割り込むことが出来た。
「ルイちゃん!」
「大丈夫だ! エリーは早く後ろに下がってくれ!」
そしてクラーケン本体に近づいた隙をついて柔破拳を叩き込み、更にダメ元で『必殺拳』を叩き込んだ!
ドブブブブン!
ズン!
やはり必殺拳の死の宣告効果は効かなかったが、柔破拳は本体に深くダメージを刻み込んだようだった。
続けざまに柔破拳を繰り出そうとする俺に全ての触手が襲いかかってきた!
くっ!
接近戦はまだ早いか!?
一旦クラーケンのそばを離れ体制を整える。
クラーケンの触手の付け根が怪しく動いた!
キキイィィィィ!
ぐぁ!
怪音波だ!
「レジストソング!」
エリーの歌で、怪音波は中和されたが、チョコとザックが深いダメージを受けてしまった。直ちに魔法とアイテムで回復させる。
回復している隙をついて触手が襲いかかってきたが、俺とイーリアスで徹底的に斬りまくる! そしてすぐさま丸呑みだ!
大分触手が短くなったぞ!
む、そういえば邪神を取り込んだことで、破邪の力がよく効いたりしないか!?
「シーラ、破邪の剣とせいせい波を試してみてくれ!」
「うん、わかった!」
シーラがインベントリから破邪の剣を取り出し装備した。シーラの白い聖竜気と破邪の剣の赤い剣身が混じり合い桃色となる。
「皆! タイミングを合わせてもう一回チョコ・ラ・エービーだ! 今度は俺も一緒に行くぞ!」
ザックに騎乗して柔破拳をスタンバイ。
俺達の動きを察知したクラーケンが、連携などさせじと再び大渦を発動させようとしたその時、シーラが青魔法『キャビテーション』の衝撃波で『大渦』の発生源を撃ち抜いた!
なんという戦闘感か!
さすがはこの世界の調停者として、長年君臨した聖竜王のうつし身だ!
シーラが続けて膨れ上がった桃色の聖竜気で、『せいせい破』を放とうとしたその時、俺とザックとシーラで何かが繋がった!
「シーラ! ザック!」
「うん!」
「ぷえ〜!」
「「アルティメットユナイトスキル、燃えろ体内宇宙発動!」」
シーラの『せいせい破』に打ち出される形で、俺を乗せたザックのチョコリュードライバーが発動する。その身に破邪の力を宿した俺とザックが、数多の流星を束ねた一つの彗星としてクラーケンの本体中心に激突する!
「チョコ座ス彗星拳!!」
破邪の力を纏った俺達の彗星拳が、螺旋の力でもって当たった所から全身に浸透していく!
そしてそのままクラーケンをぶち抜いて、本体ど真ん中に大穴が空いた!
更にチョコ・ラ・エービーで俺達と入れ替わったイーリアスとケオルグがクラーケンの眼と眼の間の眉間部分を切り裂く!
「「|魔剣斬✕勇者最強斬《聖魔ストラッシュクロス》!!」」
ズバン!
闇属性と聖属性が、Xに斬り裂かれた交点で反発しあい、クラーゲンの脳や重要臓器を消滅させていく!
やがてクラーケンの巨大な全身は硬質なガラスが繊細に砕けるような澄んだ音をたてて、光のエフェクトと共に消えていった。
魔王軍の死天王、海月魔王クラーゲンとの戦闘は今度こそ終わった。終わった途端に全員が、がくりと膝をつくような激しい戦闘だったが、ただ一人祭壇に駆けていくものがいた。
水の勇者ケオルグだ。
「メアリー! くっ! クラーゲンを倒したというのに、メアリーが水の大輝石から出て来れていない! どうすれば良いんだ!」
皆で戦闘の傷を回復させてから、俺達も祭壇の大輝石へと駆け寄る。召喚獣オクトロスも役目を終えて星霊界へと返って行った。ケオルグにもチャクラを使って回復させてから落ち着くようにゆっくりと話しかける。
「大丈夫だよ、ケオルグ。まずは大輝石に干渉している、この周囲の魔法陣を破壊しよう。大輝石の黒い侵食が治まれば、きっと水の巫女メアリーは取り戻す事が出来るから」
聖剣コンフロントと破邪の剣を用いて周囲の魔法陣を次々に砕いていくと、大輝石へと伸びていた何本もの半透明の黒い鎖のようなものが全て取り除かれた。
しかし、九割方黒に染まってしまった水の大輝石は未だに光を取り戻せていない。
突然シーラから白く輝くオーラが噴き上がり、シーラの顔付きも変わった。
「わわわわ!? え!? うん、お父さん、わかったよ。ここに呼べば良いんだね」
トランス状態となったシーラが、突然誰かと会話を始めた。相手はファーヴニルのようだ。
「ファーブニル召喚!」
『我に任せよ。シーラ、聖竜気を全て借り受けるぞ』
召喚された聖竜王ファーヴニルがすぅっと水の大輝石の真上に移動していった。傍から見てもわかるほど、凄まじいエネルギーの奔流がファーヴニルの全身を白い光となって駆け巡っている。
『聖光浄魔滅殺破!』
ゴォォォ!!
巨大な白い光が水の大輝石に降り注いでいく。
みるみる内に水の大輝石が透き通った水色に変わっていった。
『シーラを頼む』
そう言い残すとファーブニルはフッと消え、トランス状態が解けたシーラがふらりと倒れてきた。
「おっと。シーラありがとう、お疲れ様」
慌てて抱きとめたシーラは疲れ果てて意識がないが、少し休めば大丈夫だろう。
水の大輝石がひときわ強く輝くと、とても温かい透き通った声が心に直接響いてきた。
『我が勇者よ、そして光の戦士達よ……』
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