釜揚げ師走
師走は足がとても速く、他の月より早く過ぎ去ってしまう。
そのせいで毎年睦月は落ち着かない。
睦月としては正月を迎えるのだから粛々と準備を整えたいが、師走があっという間に駆け抜けるので、慌ただしく新年の幕を開けるはめになる。
年々師走のスピードは速くなっていく。
ついに睦月は我慢できず師走に文句を言った。
だが師走は全く聞く耳を持たない。それどころか「これは俺の性分なのさ!」と俊足自慢話を延々と語った。
師走に怒り心頭の睦月は、ちょうど地獄の窯の蓋をあけていた閻魔大王に言いつけた。閻魔大王も短い年末のせいで仕事に忙殺された一人だった。
「よし、儂が師走にお灸をすえてやる。今さっき窯の中身を湯から油に変えたところじゃ。最近人間の悪行が酷いから茹でるだけでは物足りん。これこそ真の窯揚げじゃ」
と閻魔大王は師走を窯に放りこんだ。
さてその年の年末。
師走はというと自己最高記録を叩き出した。
カラッと揚げられて体が軽くなったから、だそうな。
了
地獄の窯の蓋は、正月とお盆の16日にあきます。
お読みいただきありがとうございました。
この企画は410字程度というゆるい規定になっているのですが、今回初の410字達成!
やったー!
410字程度に収まる内容をたまたま閃いたということもありますが。
ショートショートってあちこちに小技が必要なんだなあと最近わかってきましたね、はい(;'∀')
広告のさらに下、作者他作品へのリンクがあります。
もしよろしかったらお手に取ってみてください♪