お姫様ラッコ
この国の王子は家来を困らせてばかり。かくれんぼしたら出てこないし、肖像画に落書きするし。だからいたずら王子と呼ばれてるって、漁師たちが言ってた。
どんな子なのかなって思ってたけど、私が見た王子は想像と違ってた。だって舟べりでそっと泣いてたから。
波間にいる私に気がついて、彼は優しく手招きしてくれた。
「ちびラッコよ聞いておくれ。父母は忙しく周囲は家来だけ。本当は寂しいんだ。おまえ友達になってくれるかい?」
それから彼が船を出すたびに私は傍で遊んだ。人間とラッコだけれど、親友になったの。
月日が経ち彼は精悍な若者になった。街の娘達はみんな彼に夢中。もちろん私も! ……でも私はラッコ。
想い募った私は、海の魔女に頼んで人間に変えてもらったの。
魔女は私に忠告した。「もしもお姫様抱っこされたら、ラッコに戻ってしまうよ」
城に勤めるとすぐ、彼は私を見初めた。「艶やかな瞳が親友に似てる」って。だって私だもの! でもそれは言えない。
私たちはあっという間に熱々の恋仲になった。だけどお姫様抱っこには注意したわ。
或る日ついに彼が求婚してくれたの! はいと頷き幸せに酔ってたら、体がふわりと浮いた。
ああなんてこと! 喜んだ彼にお姫様抱っこされてしまったのだ……!
彼の腕の上には、ラッコになった私。
彼は驚きで、私は絶望で、声も出ない。
本当の姿を見られた私は彼から逃れようとした。
でも彼は私を強く抱きしめて、こう言ってくれたの。
「君がラッコでも構わない。だって僕は、いたずラッコだから」
了
ちなみにお姫様抱っこから降ろされたら、人間に戻ったそうですw
※この作品が声のお仕事をされている吉史あん様によって、朗読配信されています。物語の世界が朗読によって生き生きした世界に変わっています……! 約3分とコンパクトなので、もしよろしかったら是非ご視聴ください。オチの後の画面にもご注目(n*´ω`*n)
https://t.co/oK6urKXK1d
吉史あん様「ショートショート異空間333歩(63)お姫様ラッコ」
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