急性カーテンコール中毒
「ああ死んでも死にきれない」
アタシの人生、こんなはずじゃなかったのにさ……!
若い頃は実力もある美人女優として引っ張りだこだったのに、ちょっと四股かけたぐらいで世間は大騒ぎ。
それから見向きもされなくなって、今じゃ皺くちゃババア、あとはただ死んでくだけさ。
そんなアタシの心のスキマを埋めてくれるモノが届いた。
通販で買った「人生劇場」――劇場型ドールハウス。年寄に人気だというそれは、脳と連動してハウスの舞台上に自分の人生が再現される。
取説もそこそこに早速いじる。
「あぁこれは一世風靡した頃のまぶしいアタシ!」
うっとりと、好きなだけ見いった。
おや? 人生劇場の側面にぶら下がったボタン「カーテンコール」とやらがある。握って親指で押してみた。
すると、スルスルスルッ……と舞台の幕が上がりアタシが姿を現すと、観客から割れんばかりの拍手喝采!
大観衆の羨望が集まり歓喜の渦に包まれた。
優越感で体が震えた。
「これだ、これだよ! ずっと欲しかったのは!!」
のめりこんだアタシは夢中でボタンを押し続けた。何回も何回も何回も何回も……
ブツン!
突然の暗転。
意識も暗転。
短時間に一気に押し過ぎた……
脳が興奮の過剰摂取に耐えられず……
そういや取説に「急性カーテンコール中毒に注意」と――――
……ふと気づけば、幕の向こうに大勢の人の気配。
アタシは再び打ち震えた。
スルスルスルッと幕が上がってライトの下へふわりと飛び出すと、観客は目を見開きアタシに釘付け。くりかえすカーテンコール!
くぐった幕や舞台上のアタシの写真を飾るリボンが、白黒のツートンカラーなんて地味すぎだけど、ま、いいか。この快感、とてもやめられそうにない。
ああこりゃ死んでも死にきれない。
(了)
ブラック系なお話でしたね~(^▽^;)
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