告りびと
姿が見えた途端、胸が弾んだ。
間違いない、彼だわ。
娘時代に戻ったかのような自分の感情に戸惑い、恥じらう。
告りびとたちは、それぞれの待ち人を迎えいれていた。
その群れの中に、彼を見つけた。
「どうしても伝えたくて、君を待ってた」
彼は熱を帯びた眼差しで、私を見つめる。
「自分の気持ちを偽り続けたこと、後悔してるんだ。本当は幼い頃からずっと、僕は君に恋してた」
嬉し涙が溢れて、彼の姿が滲む。
――そう、もう誰の目も気にしなくていい。
「……私もよ」
私もまた隠してきた本音を、初めて口にした。
「今度こそ、僕と一緒にいてくれるかい?」
微笑んだ私は、ゆっくりと頷いた。
彼の差し出した手につかまって、小舟を降りた。
乗り手のいなくなった小舟は音もなく川面を滑り、私たちが長い年月を過ごした対岸へと戻っていった。
握り返された彼の力強い手に、心は安らぎ、満たされていく。
「さあ、行こうか」
どこまでもどこまでも広がる美しい花畑の小道を、私は彼と共に歩き出した。
(了)
今回は静かなオチでした。
あり得ない設定、あり得ない世界観で、ファンタジー、シリアス、コメディ、ホラーとなんでも描けるのがショートショートの魅力ですね!(*^^*)
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