7-11
次の瞬間。
ヒュイーーーンッ!!
そんな音で風を切り、見えない物体が飛んで来た。その飛来物の軌道は南風の頭部に向かっており、南風が慌てて刀を振るい迎撃する。金属音と共に地面に打ち落とされたそれは、六芒星を象った漆黒の手裏剣だった。
「こ、これはっ……!」
南風が整った顔を驚愕に歪ませ、手裏剣の飛んで来た方向を見る。私もうつぶせの状態から懸命に首をもたげ、同じ方を見る。
「あなたの相棒からいただいたお土産ですよ、血影衆の殺手!」
プールエリアの端の端、外部と敷地を区切る金網のてっぺんに凄まじいバランス感覚で仁王立ちしていたのは、果たして私が待ち望んだ林美夢その人だった。
「みっ……みみみ美夢さぁん!!」
「香織さん!!」
私と美夢さんの呼び合う声が交錯し、視線が熱く絡み合う。その一方で南風は地面に落ちた手裏剣を拾い上げ、わなわなと肩を震わせた。
「……やっぱり姉さんの闇手裏剣だ。林美夢……貴様、姉さんをやったのか!? うおあぁーーーーーッ!!」
怒号を上げ、南風が美夢さんに向かって走り出す。美夢さんは軽やかな動作で金網から飛び降りると、彼を迎え撃つべく自分も突進する。その手には得意武器のヌンチャクが握られていた。
「チェストオオオオオオオッ!!」
喉も枯れるような掛け声と共に、南風が長刀を大上段から振り下ろす。美夢さんはその斬撃をヌンチャクの鎖で受け止めようとしたが、寸前で躊躇い身を捻って回避した。そして、本来美夢さんが居るべき場所に長刀が叩きつけられる。
ドゴォ!!
鉄槌か重機を思わせる轟音が響き、コンクリの地面に数メートルの亀裂が入った。
「いいっ!?」
発生した衝撃波に前髪を煽られながら、美夢さんが声を上ずらせる。それ程に強烈で、予想外の威力だったのだ。もし受け止めていれば美夢さんの長身がヌンチャクごと真っ二つに叩き割られていただろう。
(あいつ……ただ病的なだけかと思ったら強いじゃん!? ホラーハウスでは未然に防げたけど、あんなエグい一撃を人の脳天に叩き込もうとしてたのか……ふざけんな!!)
南風が離れたことで自由の身になった私は、プールサイドにあるデッキチェアの陰に隠れて戦いを見守る。
「よくも姉さんをーーーッ!! 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!」
「ちょっ、待っ……落ち着いてください! 姉さんというのはもしや……ひえっ!?」
南風は怒りのあまり涙まで流しながら、立て続けに長刀を振るう。打ち下ろし、横薙ぎ、袈裟懸け、再び打ち下ろしからの逆袈裟と連撃が続く。一太刀ごとに剣圧で風が巻き、外れた斬撃でプールサイドが破壊されていく。傍目には南風の動きはそれほど素早く見えないんだけど、美夢さんは逃げ回るだけで反撃の糸口を掴めていない。
(美夢さん……来てくれて嬉しい。無事だとわかって心底安心したけど、この状況はとてもじゃないけど楽観できないよ。依然ピンチだよ)
よく見ると美夢さんのジャージは所々切り裂かれていて、ブルーの布地には血が赤黒く染みている。やっぱり既に激しい戦いを切り抜けた後なんだ。手負いの状態で、この恐るべき破壊力を持つ殺手に勝てるのだろうか。
「美夢さん……がんばれーーーっ!!」
心配から思わず声援を送ってしまう私。その声が届いたのか、美夢さんが遠目でもわかるぐらい笑顔になる。いや、こっち見てないでちゃんと敵を見ろって!
《つづく》




