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格闘タイプのお姉さんが護衛と引き換えに私の体を要求して来るんだけど!? ~意外とウブな芋ジャー女ドラゴンに溺愛されるキケンな二人暮らし~  作者: 枕頭皮
第7話 貴女は一人じゃない。そのことを忘れないでください ~血影衆殺手 東風 & 南風 登場~
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7-6

 私は床に手をついて後ずさろうとしたけど、すぐ後ろが壁で逃げ場がない。表へ出られるドアはここから見えてるけど、それを遮るように南風が私の目の前に刀を突き立てた。


「なのに君たちはきょうだい同士で憎み合い、あまつさえ遺産を巡って殺し合いまでしている! 許せない……きょうだいという概念を冒涜してるんだ君たちは。旋風さんから依頼の内容を聞いた時は(はらわた)が煮えくり返ったよ……! 君のような奴は絶対に殺さなくちゃならないんだ。この僕の手で!」


「わっ、私は降りかかる火の粉を払ってるだけ! あんたらに殺しを頼むような奴と一緒にしないで!」


 てか殺し屋本人がそれを言うかよ。南風の倒錯した憤りに私は反発したが、彼は「一緒だよ」と切って捨てた。


「骨肉の争いがこの世で一番醜いんだ。そんなものが起こるってのは、その一族全部が病んでいるんだ。本当に救いようがないよ……君たち“無道院”の一族は」


 ドクン


 無道院。不意に言及されたその姓を聞いて、私の鼓動が痛いほどに跳ね上がった。それは私が最も忌み嫌い、実家を出てから心の奥底に仕舞っていた不吉な三文字。すなわち、私の“本当の姓”だった。


「そう思うだろ? 無道院家現当主の第四子にして造反者、無道院香織」


 南風が嘲るように私の戸籍上のフルネームを発する。それを聞いて私は胸を掻きむしる思いがした。


「私はっ……私は兼道香織よ! そんな名前はもう関係ない!」


 ムドーインカオリ。この世で一番忘れたい音の響きだ。久々に聞いたからか、緊急事態なのに虫唾が走って来る。嫌悪感が腹の底から上がって来て止まらない。


「おかしなことを言うね。その“兼道”の姓だって無道院家の者が日常で名乗ることを許されてる通り名のひとつじゃないか。君は今でも忌むべき一族の端くれなんだよ。無論、死ぬまでずっとね」


 南風が追い打ちをかけるようにそう言うが、事実その通りだ。私が地元を離れ気ままな寮暮らしをしていられるのも、向坂さんとの連絡を恐らく黙認されているのも、今なお私が無道院家の人間として認められているからに他ならない。


「まあ君の境遇にも同情はするよ。罪深い生まれのために家を捨て、名を隠し、今また命まで刈り取られようなんて。でも考えようかもしれない。今ここで死ぬことで……誰よりもきょうだいの絆を尊ぶ僕の手にかかることで君の命は浄化されるんだよ。ああきっとそうだ。君だってそろそろ終わりにしたいと思ってるんだろ?」


 そうだ。私を殺してお祖父様の遺産を奪おうなんて考える輩が現れたのも、私が“身内”だからだ。内々のこととしてどうとでも隠蔽できる……そう思われているからだ。口先でいくら強がったところで、私の人生は無道院の呪縛から逃れられないのかもしれない。こんな人生、続けるだけ虚しいのかもしれないね。


(でも……だからこそ!)


 だが、私の心は折れない。こんな中傷で折れるぐらいなら今まであんなに抵抗してない。お祖父様を利用して実家を出たのも、美夢さんと契約を交わしたのも、友達をわざわざ危険に晒す真似をしたのも、全ては私が幸せになるための抵抗なのだ。


(南風くん、きっとあなたと私にそんな違いはないよ。どっちも最低な人生を少しでもマシにしようとあがいてるだけ。それが君にとっては家族を大事にすることで、私にとっては家族と戦うことだったんだ。それにね……君にお姉さんが居るように私だって一人じゃないんだよ)


 心のウィークポイントに触れられたことで死の恐怖が上書きされ、逆に頭が冷静になっていく私。そんな私は不自然に黙りこくっていたようで、演説中の南風が訝しげに首を捻った。


「どうしたの、罪人は罪人なりに言い分とかないの? まあ、僕は言いたいこと言えたからもういいんだけどさ」


 南風が床から刀を抜き、大上段に構える。ともすれば天井を擦りそうなその長刀を、さぞ見事に振り下ろして私を真っ二つにするつもりなんだろう。斬殺遺体の処理とかどうするのかな。玉風の言ってた偽装班が割を食うことになるのかな。


「いざ浄罪の時だ。僕と姉さんのため、あまねくきょうだいたちのため……死ね、無道院香織!!」


 刀の柄が握り込まれ、南風が斬撃のモーションに入る。イレギュラーに対する反応力がわずかに鈍るこの瞬間を私は見逃さなかった。


(今だっ!!)


 私は首にかけていた犬笛を素早く口に咥え、胸いっぱいの息で吹き鳴らした。


 ピィーーーーーーーーーーーーッ!!


「ぎっ……あああああああああああ!!」


 途端に南風の体が泳ぎ、勢い余って転倒する。彼の手から離れた刀がすぐ横の壁に突き刺さり、私は冷や汗をかいた。だが大成功だ。


《つづく》

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