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「がふっ!」
たまらず上がる顎。曝け出された絶好の急所めがけて、林美夢はキックを放つ。風切り音と共に前蹴りが決まり、刺客は盛大に吹っ飛んだ。
「す、すごい……」
私は思わずそう呟いていた。愛梨ちゃんは筋肉の話ばかりしていたけど、この林美夢という人はそれだけじゃない。明らかに格闘技を学んでいる。それでもってめちゃくちゃ強いんだ。鍛えてるって、そういうこと!?
「……あなたの動き、以前見たことがあります。日本に伝わる古流の暗殺術。それこそ忍術をルーツとする闇の技ですね」
私の称賛を背中に受けながら、林美夢はまだ相手から目を逸らさない。見ると刺客は口から血を流しながらなおも立ち上がり、向かって来ようとしている。嘘でしょ? かなりいいのを貰ったように見えたけど、この人タフすぎるよ。
「げほっ、ごほっ……お前こそなかなか珍しい技を使うじゃない。古の中国拳法……いや、その世界においても伝説とされる秘拳の類だ」
「ご明察です。中国は福建省、南少林寺にて学びし南派少林拳。伊達ではないとわかっていただけましたか?」
林美夢が腰を落とし、足を開いて半身に構える。やっぱり拳法家だったんだ。あの超人的な身体能力を持つ刺客を相手に引けを取っていない。むしろ圧倒している。
「顎の骨を砕いた感覚がありました。退くというのなら止めはしませんが」
低い声でそう言いながら、林美夢がにじり寄る。刺客は保健室の扉に手をついて体を支えながら、狂ったように笑った。
「あっははははは!! 勝ち誇って情けをかけるっていうの? それさぁ……やる方は気持ちいいけど、やられるとめちゃくちゃ腹立つやつだよねっ!!」
怒った語気と共に、手槍が投擲される。不意打ちに等しいそれを、林美夢は咄嗟に手刀で叩き落とす。一瞬途切れた視線を戻すと、そこ刺客の姿はない。でも、端から見ていた私には見えていた。
「上〜っ!!」
私の声にハッとして、林美夢が視線を上げる。果たしてそこには、手槍を囮に大きく跳躍し、今まさに飛び蹴りを放つ刺客の姿があった。当然避けられるわけもなく、林美夢はしっかり顔面にキックをお見舞いされてしまった。
「おぶっ!?」
たたらを踏み後退する林美夢。その隙を突いて、刺客が連続攻撃を加える。両の手刀を矢継ぎ早に繰り出し、胸を、腹を、ガードしようとした腕をも構わず刺突する。一撃一撃に素手とは思えない鋭さがあるようで、林美夢が顔を歪めている。
「このっ……痛いです!」
たまらず放った反撃の蹴りが、刺客に脚ごと捕まえられる。
「あっ」
林美夢の顔が一瞬にして青ざめる。素手での殴り合いにおいて、脚を取られることが絶体のピンチなことぐらい私でもわかる。
「顎骨のお返しに、片膝を貰うよっ!」
刺客が血まみれの口角をニタリと上げ、林美夢の膝に肘鉄を振り下ろす。壊される……私がそう思った時だった。
「……ぜえええええいっ!!」
林美夢が雄叫びを上げ、地についた方の足を蹴り上げる。そのまま体を捻り、捕まえられた脚を支点にしてきりもみ回転、強烈な曲芸キックを敵の側頭部に浴びせた。
《つづく》