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(いやいやおかしいって! 嫉妬してくれるのは別にいいけどさ、さっきはあんな催促して来てたのになんでイライラしてんの!? わからない……乙女心はわからない! )
などと、自身も乙女であることを忘れるぐらい私が戸惑ってる間にも、愛梨ちゃんは次の質問をぶつけて来る。
「う〜ん、いいわねいいわね! やっぱり美夢さんって自分からグイグイ行くタイプみたいねぇ。あの筋肉で情熱的にアプローチされるなんて羨ましい限りだわ。どんどん行きましょう、次の質問!」
このようにお気楽そのものなんだから呆れてしまう。ねぇ気付いて先生、今まさに一人の生徒の心が闇に染まりつつあるということに。
「夜は一人で寝てるの? それとも一緒?」
ガコンッ
メメちゃんが豪快なフォームで空きカップを投擲し、待機列から2メートルは離れたゴミ箱にドストライクで叩き込む。
(いや怖いって!!)
「わ~! ねぇ見て入ったよぉ♪ すごくなぁい?……で、かおさんや。質問の答えはどした? 寝る時はどうしてんの?」
(だからなんで聞きたがるの!?)
メメちゃんの乱高下するテンションに私が戦慄していると、彼女はつつつと私の胸元に寄り添って来て、上目遣いをしながら「ねぇ、かお」と問いかけて来た。
「ウチ覚えてるよ。去年の修学旅行の晩、一緒に寝ようっていっぱい頼んだのにとうとう寝てくれなかったよね。そんなウチの寂しさを考慮した上で速やかにお答えください」
「いやっ、あの時はまだそういうの照れ臭くて……ってか駄目って言っても勝手に布団に入って来るから叩き出したんじゃん!」
「こ~た~え~……てっ♪」
「うぐうっ」
有無を言わせぬメメちゃんの圧と上目遣いのキュートさに私は負け、もごもごと口を割る。
「……流石に、美夢さんには床で寝て貰ってるよ。節度ってものがあるからね。でもまあ、美夢さんは何かと世話焼こうとしてくれるから、その……寝かしつけは毎晩して貰ってる、かな」
ギシッ
「ぐえっ……メ、メメちゃん!?」
私の答えを聞くや否や、メメちゃんが私の胴体に腕を回して抱き着いて来た。いや、むしろこれは羽交い絞め……ってかベアハッグ? ウエストが絞られそうなほど締め上げられ、私は思わずメメちゃんが頭を押さえた。
「ちょっ……苦し……っ! もう勘弁してよメメちゃん!」
ふわふわで、それでいて櫛通りの良さそうなメメちゃんの髪に指を滑らせながら抵抗する私。するとメメちゃんがむすっとした顔を私に向けながら、ぽつりと呟いた。
「……浮気者」
瞬間、私の背筋に電撃のような衝撃が走った。ちょっと遅れて、動悸に似た胸の高鳴りも。
(な、何この気持ち……拗ねてるメメちゃんが可愛いのは理解できるけど、どうしてこんなに息切れするんだろう。まさか私……結構ドキドキしちゃってる!? 親友の知らない一面を見て、思ったよりズッキュン来ちゃってるって言うの!? いやまさかそんな……ね?)
きっと、緊張感で脳とか心臓とかが過敏になってるんだろう。きっとその所為だ。何より今は戦いの真っ最中ということもあり、私はこの気持ちに対する分析をひとまず置くことにした。
「いやぁ、恋の火花がバッチバチね。あっちにも……こっちにも」
愛梨ちゃんが知ったようなことを言ってるけど、腹立つので無視だ無視。なお、この後すぐにウォータースライダーの順番が来たわけだけど、メメちゃんはずっとの腕にしがみついたままで……急降下の時写真に撮られた私の顔はあらゆる意味で引きつっていたのは言うまでもない。
《つづく》




