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「正直、驚いています。殺手が直接わたしを叩きに来るなんて。てっきり来場者に紛れて香織さんを狙いに行くものと思っていましたから」
そう言いながら、美夢はポケットから銀弾をごっそり掴み出して手の中に握り込んだ。両手で一発ずつ弾くとして、一度に放てるのは二発が関の山。果たしてこれで東風の手裏剣に対抗できるか否か。
「おっ、やる気ね?」
美夢が指弾を装填するのを見て、東風の声のトーンが上がる。
「まあそうねぇ、アンタにはうちの殺手が三人もやられてるでしょ? こんなこと前代未聞だし……ぶっちゃけ暗殺集団としての沽券に関わるの。アンタはもう既に、アタシらが狙うに値する宿敵なのよ。それに、アタシも個人的にアンタに興味がある。旋風さんが一目置いてるアンタと本気でやり合ってみたい。任務も大事だけど、これはアタシの拘りね」
「……」
東風の言葉からは武術を修めた者の矜持が窺え、美夢としても決して耳心地の悪いものではなかった。絆されるのは厳禁だが、ここまで堂々と勝負を挑まれて応じないのは拳法家の精神に悖るような気さえした。
「……いいでしょう。あなたの挑戦を受けます。その代わり、勝負がつけば早々に退いていただけますか?」
「ええ、勿論よ」
美夢が駄目元で投げかけてみた提案すぐさま承諾する東風。これを見て美夢も本腰を入れた。この勝負を必ず制し、最速で香織のガードに向かうと。
「勝負は投擲武器の撃ち合い。今この距離から互いに両手で2発撃つ。合図はそうね……次に“絶叫”が聴こえたらなんてどうかしら?」
そう言いながら、東風は美夢の肩越しにパークの方を指差した。高々と空に弧を描くジェットコースターのレールが、木々の隙間から見えている。キリキリと稼働するそのレールは今まさにコースターを頂点まで運ぶ途中であり、期待と不安に気を昂らせた乗客たちが絶叫に備えて胸を膨らませていることだろう。殺手として五感を鍛えた東風は勿論、美夢にとっても充分に合図として機能する。
「わかりました。重ねて言いますが、勝敗が決すれば諦めてください。お互いに時間を浪費したくはない筈です」
「オーケー。心配しなくても東風に二言はないわ。それに負けるつもりもない……アンタはここで死ぬのよ、林美夢」
フランクに喋っていた東風の雰囲気が、その言葉を最後に険しいものになる。それに合わせて美夢も指弾を親指に装填し、来るべき発射の時に備える。
「……フフン」
「……!」
互いに押し黙り、その時を待つ両者。感覚を研ぎ澄ませ、四肢は柔軟かつどこまでも強固に保つ。遥か後方の空ではジェットコースターがレールの頂点をゆっくりと乗り越え、位置エネルギーと乗客の興奮を臨界まで溜め込み……遂に解放した。
キャアーーーーーーーッ!!
「はっ!!」
「……っ!」
歓声にも似た絶叫がこだまし、両者がばねで弾かれるように動く。
先に投擲のモーションに入ったのは東風。体をコンパクトに捻り、最小の動きで最大の運動エネルギーを生み出す。その慣性を乗せて擲たれた2発の手裏剣は、水平に高速回転しながら美夢の方へ飛んで行く。またそれらはいずれも重心を少しもブラさず、相手に横腹を見せない一直線の軌道を描いている。塗装による非視認性に加え、この投擲技術をもってすれば正面の相手から闇手裏剣は全く見えなくなる。糸のような一条の黒線が迫って来るのがわかった時にはもう手遅れなのだ。
《つづく》




