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目ざとく見つけたメメちゃんに対し、私は咄嗟に取り繕おうとした。と、その前に愛梨ちゃんからの「待った!」が入った。
「皆まで言わなくて良いわ。あたしにはわかる。どう見ても香織ちゃんの趣味じゃないそのアクセ……例の林美夢さんから貰ったわね?」
ぶほっ。
「……ふ~ん、へぇ~~~。そうなんだ」
途端にメメちゃんの表情が曇り始める。一方、昨日の喧嘩を見ていない愛梨ちゃんはニヤニヤ顔マックス。この恋バナ大好き人間め……ってかなんで一瞬でバレるかなぁ!?
「いやぁ、昨日メメちゃんから聞いてびっくりしたわ。あの時追い出された筈の不審者とまさか同棲始めてるなんて。そりゃあたしも教師として心配しないでもなかったけど、全然ラブラブじゃない」
「違くて、聞いて愛梨ちゃん。別にラブラブとかそんなんじゃ」
「オーケーオーケー、そういう感じね。大丈夫。香織ちゃんも大変よね。献身的に尽くしてくれて、甘い言葉をささやいてくれて、その上自分を女として見て来るおねーさんと一つ屋根の下なんて……さぞかし悶々とした夜を過ごしていることでしょうね〜」
「だから違くて! 言い方がゲスい!」
駄目だ始末に負えない。愛梨ちゃんは私と美夢さんの初対面を見ているから、今の状況は面白くて仕方ないだろうな。でもね愛梨ちゃん気付いて、メメちゃんの口元がだんだん引きつって来てることに。
「へぇ~、そうなん? ウチはかおから聞いたことをそのまま愛梨ちゃんに教えたんだけど、違った?」
まだちょっと言葉尻に恨み節が残ってるメメちゃん。愛梨ちゃんと電話口でさぞ盛り上がったであろうことを思うと忌々しいけど、そもそもの原因は私だし……あまり取り繕っても怪しまれる。美夢さんに殺し屋を撃退して貰ってることはあくまで秘密なんだから。
「……別に、違わないけど」
「ひゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
観念する私に、愛梨ちゃんの快哉が浴びせられる。メメちゃんの肩を掴んでぴょんぴょん飛び跳ねる養護教諭からそっぽを向き、私はひとまず入園ゲートへ爪先を向ける。
「もういいから、早く行くよ。混んでるんだからシャキシャキ動かないと」
私たちが園内を回る上でのタイムテーブルはざっくり作成して美夢さんに渡してある。入園のタイミングと順路さえ固定しておけば、美夢さんも私を見失うことなく追跡してくれるだろう。
「私、チケット買って来るから二人は待ってて」
私がそう告げると、俄にメメちゃんが「え〜」と言って袖をつまんで来た。仕草こそ愛らしさ満点だけど、その目元にはネコ科の肉食獣を思わせる眼光が宿っている。
「もう終わりぃ? ウチとしてはカフェにでも突っ込んで引き続き根掘り葉掘り聞くのもアリかな〜って思うんだけど。ウチを差し置いておねーさんとどんなことしてるか、さ?」
「は?」
「それいいわね。開園直後なんてどうせ激混みだし、ゆっくりお昼でも食べてから行った方がいいかもしれないわよ。私も教師として気になるのよねぇ、今時の子のそういう赤裸々な事情」
ヤキモチでメラメラ燃えているメメちゃんの提案に、愛梨ちゃんも呑気して追従して来た。いっそこの流れに乗って喫茶店からの街ブラにでも持ち込むか、拗ねたフリをして私だけ帰ってしまうか……その方がみんな安全なんじゃないか。そんな考えが頭をよぎった。だが私は心の中でかぶりを振り、甘い考えを戒める。
(駄目だぞ香織。ここでケリをつけると決めたじゃないか。確実に殺し屋と黒幕を引き付けて迎え撃つために、今日は全力で浮かれてみせるんだ。大丈夫。二人のことは美夢さんが守ってくれる。あとは私が責任持って命をかけるだけ……!)
《つづく》




