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「……いざという時に、これで美夢さんを呼べってことか」
「その通りです」
やっぱりそうかぁ。確かにもうそれしかないと思うけど、この方針だと私も相当の覚悟をしなきゃならない。一番しんどい作戦かもしれない。
「わたしはどこか見晴らしの良い場所を見つけ、香織さんとその周辺を見張りましょう。わたしの目で怪しい者を発見できた場合は即座に対処します。もし、わたしの目の届かない場所で怪しい者に出くわした時はどうぞ笛を吹いてください。少林寺で身につけた遠見と早駆けを駆使すればわけもなく駆けつけられますし……兵隊を不意打ちで片付ける分にはそう騒ぎにもならないでしょう。これだけで済めば僥倖。非常にラッキーです」
「問題は、殺手と出会った時だよね」
敵のエリートである殺手は、戦闘力において兵隊とは比べ物にならない。流石の美夢さんでも腰を据えて戦わなければ危ない相手だ。そして、それには相応の戦場というものが必要になる。
「そうです。その場合、大変遺憾なのですが香織さんには……」
「わかってるよ」
群衆に惑わされることなく敵の動きを見極め、かつこちらに有利な場所で決戦に持ち込む方法。現状で取れる方法はひとつぐらいのものだろう。
「私が笛で美夢さんを呼んで、それから人気のない場所まで敵をおびき出す。そうでしょ?」
敵の暴力に屈しないため、何でもやると決めたんだ。これぐらいは頑張るぞ。
「香織さん」
驚きに目を見張る美夢さん。私のやる気にもっと感心するがいいよ。
「すみません……もっと良い作戦を考え出せれば、香織さんを危険な目に遭わせずとも良かったのですが、今はこれが精一杯……自分が情けないです」
「あーもう、違うから。そういうのいいからさ、励ましてよ。これから殺し屋を逆に出し抜こうっていう私をさ」
実際、計画の趣旨はこの短い会話の間に大きく変わった。これはもはや敵をやり過ごす策ではなく、餌に寄って来る敵を釣り上げて仕留めるための策だ。でもいいんだ。私は大いに気に入った。
「あいつらをぎゃふんと言わせてやろう、私と美夢さんで」
私は美夢さんに向かって手を差し出し、握手を求めた。見解が一致したことの確認と、景気づけのためだ。
「香織さん……香織さんっ!!!!」
が、美夢さんは私の手なんかお構いなしにがばっと抱き着いて来て、私の顔は美夢さんの立派なバストに埋まってしまった。
「むぐーーーッ!!」
窒息の危機を訴えるのと、意向が汲まれなかったことへの抗議の両方で私は美夢さんの背中をバンバン叩いた。
「わたし、感激しました。香織さん……やっぱり貴女は強い人です!!」
あ、駄目だ。鋼のような背筋に跳ね返されて全然効いてない。そろそろおっぱいで息が詰まりそうなんだけど。
「思えば11年前もそうでした。こんなにも気丈で、潔くて、健気で……そんな貴女の姿がわたしの心の支えになった。絶対に守り抜いてみせる……貴女の命も幸せも、傷一つとして付けさせるものですか」
やばいやばい。でかい。やわらかい。酸素が足りない。巨乳で溺れ死にそう。
「そのためになら、わたしは……」
「っ……むむーーーーッ!!!!」
更に強くなる抱擁の締め付けに耐えかね、私は美夢さんの脇腹を思い切りグーで殴った。
「ごぼおっ!?」
密着状態でのワンインチ・パンチが肝臓の位置に突き刺さり、悶絶する美夢さん。その隙に脱出した私は、額から吹き出す汗を勝ち名乗りのように拭った。
《つづく》




