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5-7

「人のLINEを勝手に見るな、このすけべ!」


「ご、ごめんなさい、本当に……。遊びに行くのなら、わたしのことはどうぞ気にしないでください」


「えっ……なんて?」


「ん? ですから、わたしはいいので香織さんは羽を伸ばしてくださいね」


 そうやって丁寧に言い直してくれる美夢さんだけど、私も別に聞こえなかったわけじゃないからね。想像もしてない言葉が来て耳を疑っただけだから。


「今のこの状況、美夢さんも理解してないわけじゃないよね?」


 美夢さんは私の護衛だ。今まさに刺客に狙われている人間が休日だからといって好きに動き回っては、守るに不利なんてものじゃない。本気で私を守ろうというのなら、そんなことわかってるだろうに。私は美夢さんの真意を測りかね、思わず眉をひそめてしまう。緊張が走る中、美夢さんが言葉を続ける。


「香織さんが躊躇っている理由、わかります。お友達を巻き込むことを恐れているのなら、その人たちもわたしが守ります。ですから」


「あのね、言ってることわかってる? 護衛対象が3人に増えるってことなんだよ? しかも人混みに紛れて近付いて来る敵を警戒しなきゃならない。現実的に無理だよ」


 いけない、どんどん語気が強くなるのが自分でもわかる。


「守るなんて簡単に言わないで。そんな気休めで満足するような、私そんな馬鹿な子に見えるかなぁ?」


 ああ、私って子どもっぽい。折角我慢しようとしてるのに、甘いことを言われているから腹が立つんだ。精一杯殊勝なことをしようとした自分を否定されたみたいに感じてムカついている。美夢さんは100%善意で言ってるのに、これじゃ八つ当たりだ。


「私は! 私は友達のことを思って……!」


「香織さん」


 と、美夢さんがいつの間にかベッドの脇にひざまずいていて……俯いた私の目元をそっと指で拭った。目尻を掠めて離れたその人差し指の先に、透明な雫がぽつりと乗っている。


「どうか泣かないで。貴女が優しい人だってこと、わたしわかってますから」


「うぅ……か、勝手に触んな」


 そういうのは今いいんだよ。私がそう言って突っぱねようとしたその時だった。美夢さんが指先に乗った私の涙をじっと見つめたかと思うと……それを指ごとぱくりと口に含んだ。


「い゛っ……!?」


 思わず血の気が引き、喉が絞られる私。


「えへへ……しょっぱいです」


「な、なっ、ななななな……何をしとるんじゃコラ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」


 私は美夢さんの頭を素手で引っぱたき、頬を両側から鷲掴みにしてガクガクと揺らす。突然の生理的嫌悪感に見舞われ頭はパニックだ。


「馬鹿! 変態! 何考えてんのよもうほんと信じられない! キモい!」


「あわわわわ……香織さん、香織さんあんまり脳を揺らさないでぇっ」


「うるさーーーいっ! 折角真面目な話してたのに……何なのよもう、意味わかんない。大人なんだからちゃんと聞いてよぉ……!」


 美夢さんの顔から手を離し、私はベッドの上で丸くなった。どうにも癪だ。煙に巻かれたみたいで甚だ癪に障る。でも……大声出したからだろうか、数秒前までの息が詰まりそうな気持ちはどこかへ霧散してしまっていた。


「あの……香織さん?」


 不貞寝の体勢で黙りこくる私を見て、美夢さんが心配そうに声をかけて来る。全く、それなら最初からやらなきゃいいのに。


《つづく》

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