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5-6

(メメちゃん!)


 美夢さんに言おうとした言葉を中断し、私はスマホを手に取る。焦り気味のタップ操作で開いた文面には、いつものメメちゃんより少し畏まった文体でこう書かれてあった。


――かお、今日はごめんね。ウチ頭に血が上ってムキになっちゃって。


――かおが誰を一番にするかはかおの自由だもん。ウチがどうこう言う権利ない。でもウチにはやっぱりかおが一番だから、仲直りしたい。


――だから……もし良かったら明日、一緒にジャンボリーパーク行っとかない? 愛梨ちゃんも誘って久々にパーッとやろうよ。もちろん、かおの都合が悪かったら無理しなくていいから。ウチがかおを嫌いになるわけないってことだけは知っといてほしいな。


――それじゃ、返信を待つ!


(メメちゃん……)


 ゆるふわに見えてメメちゃんは時々すごく大人だったりする。お姉さんが割と自由な人みたいで、その所為なのかもしれない。いずれにせよ、彼女の大きな気遣いとささやかな祈りのようなものがないまぜになったメッセージに私は思わず目頭を押さえた。


(でも……ごめん。私はメメちゃんの気持ちには応えられない。メメちゃんが殺し屋に襲われるなんて私には耐えられそうにないんだ。愛梨ちゃんに至ってはもう危ない目に遭ってるし、次こそ命はないかもしれない。二人を巻き込むことは絶対にできないよ)


 それにジャンボリーパークと言えばここの地方を代表する遊園地で、週末ともなれば何百人もの人が訪れる県内有数の娯楽施設だ。刺客を紛れ込ませる人混みや物陰ならいくらでも存在する。そんな所で殺し屋を警戒しながら遊ぶなんて無茶だ。リスクが大きすぎる。


(メメちゃんには悪いけど、ここは心を鬼にして断るしかない。自分と友達の命、両方を守るためだもん。当然のことだよ。大丈夫、私は間違ってない……)


 スマホの画面をどこか遠い目で見ながら、私は適当な断りの文面を返信フォームに打ち込んでいく。淡々と羅列されていく文字にはおよそ心というものがなくて、私は俄かに堪えられなくなる。


(でもやっぱ……辛いよ)


 メメちゃんは優しい言葉をかけてくれるが、私にはわかる。ここで彼女の思いを無下にしてしまったら、私たちの間には埋めようのない溝ができてしまう。後でどれだけ取り繕おうが一度離れてしまった距離は縮まらず、もう以前の二人には戻れないだろう。


 実家を出て、この学校に来て、初めてできた友達……それがメメちゃんだ。教室で駄弁って、放課後にお茶して、休日には張り切って遊びに出かけて……彼女と過ごした一年の間に、それまで灰色だった私の日常がどれだけ彩られたか知れない。愛梨ちゃんにしたってそうだ。教師と生徒の垣根を越えて気さくに接してくれる彼女と話すことで、不意にささくれる心がどれだけ癒されたことか。


 そんな大切なものさえ、今の私は諦めなければならないのか。そう思うと悔しくて、情けなくて、なかなかメッセージの送信ボタンが押せない。いっそ泣き叫びたいような気持ちで私が固まっていた、その時だった。


「遊園地ですか。いいですねぇ」


 いつの間にか美夢さんが私の後ろに回っており、スマホの画面をばっちり覗き込んでいた。


「わあっ!?」


「すみません、香織さんがとても深刻な顔をしているように見えたもので。でも、これって普通に嬉しい話じゃ……お゛う゛っ!?」


 ヘラヘラしてる美夢さんのみぞおちに、私は脊髄反射の肘打ちを見舞った。濁った声と共に悶絶する美夢さんの側から飛び退き、ベッドの上に避難する。


《つづく》

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