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「ばっ……馬鹿! 別にあんなの恋人じゃないから!!」
「そういうのが聞きたくないって言ってんのにぃ……わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
メメちゃんが癇癪を起こして私の髪の毛を両手でくしゃくしゃにかき回して来る。天使のようなふわふわヘアーのメメちゃんと違い、200円のシャンプーでコーティングされた私の直毛は指通りが悪いからそんなにされると頭皮が結構引っ張られる。
「ちょっ……痛っ、 痛い! 髪抜けるから! 薄毛になるからやめてっ……やめろ!!」
ブチ切れてメメちゃんの髪を掴み返そうとする私。でも、あまりにも綺麗にウェーブのかかったゆるふわボブを崩してしまうのが憚られて思わず手が止まる。その隙にメメちゃんはその紅葉みたいな掌を私の髪から顔へと移し、頬と言わず鼻と言わずもみくちゃにし始める。
「ごはん作ってくれるおねーさんが何だってんのさぁ〜〜〜〜! そんなんいいからウチに構えよ〜〜〜構ってくれなきゃやだやだやだやだやだやだ」
そうぐずるメメちゃんの目が次第に潤んで来る。気持ちが溢れて来てる感じだ。
(涙目で嫉妬して来るメメちゃん……か、可愛いかも! でも私だって好きで疎遠にしてるわけじゃない。人が少なくなってから学校に留まっていると襲われるかもしれないから雑談せずにすぐ帰ってるだけだし……万が一にもメメちゃんが敵に目をつけられないようにするために、休み時間や昼休みだってなるべく無関係を装ってるんだよ)
「かおはそれで満足なの? 都合の良い年上彼女を拾ったら同い年の友達なんかどうでもいいの? ウチは……ウチは……かおがリア充になるまでの使い捨てだったんだぁ〜〜〜〜〜!!」
(それなのに……こっちが抵抗しないからって好き勝手言いやがってーーーッ!!)
メメちゃんがあらぬ方向に思い詰めているのを見かねた私は、彼女の腕を掴んで押し留め、真正面からガンをつける。
「だから! 美夢さんとは一時的な協力関係みたいなもので、恋人でも何でもないから! それにもし誰かと付き合っても私はメメちゃんを蔑ろにしたりしないし、今だってそうだよ」
「うぅ〜〜……そんなの全然わかんない! 一時的な協力関係って何? 恋人じゃないのに同棲してるって何なの? やましくないならちゃんとウチに紹介してよぉ〜〜〜……」
結構言ってやったつもりだったけど、メメちゃんは納得してくれない。不審者と関わり続けてる私を心配してるのか、それとも普段ゆるふわな乙女ほどヤキモチパワーが凄いのか。どちらにせよ、メメちゃんを巻き込めない私に話せることはそんなにないんだから勘弁してよマジで。
「……とにかく大丈夫な人なんだよ。メメちゃんは気にしなくていいから。ほら、泣いてると可愛い顔が台無しだよ」
そう言って私はメメちゃんの頭を撫でようとした。だが、話を切り上げたいという意図は見抜かれたに違いない。メメちゃんは私の手を乱暴に払い除けた。
「誤魔化さないでよぉ!! ねぇ〜〜なんで言えないの? ねぇなんで? やっぱりウチに後ろめたいことがあるんだぁ〜〜〜!!」
「くっ……!」
平手打ちに等しい強さで叩かれた右手の痛み、そしてわかってくれないメメちゃんに苛立つ気持ちが、私の感情を突発的に加熱する。そのたった一瞬の沸騰が、私にあまりにも不用意な発言をさせる。
「メメちゃんには関係ないからだよ!!」
最後の一音が舌先から離れた瞬間、とてつもない後悔が私の胸に押し寄せた。やらかした。言ってしまった。会話を打ち切るには一番手っ取り早いが、代わりに相手の気持ちをこれ以上なく踏みにじる一言を私は大切な友達にぶつけてしまったのだ。
「……かお、嫌い」
《つづく》




