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(うん……何なんだろうねあの謎の時間。てか美夢さん、本当に私とえっちする気あるのか!? いや私は別にいいけどさ、流石にヘタレ過ぎない? 逃げてんじゃねーよ自分の決めた目標から!!)
私に触れるのは刺激が強すぎるから、少しずつ摂取量を増やして慣らしているのだと美夢さんは言っていた。人を危険物みたいに言うけど、ここまで来ると私の体が欲しい云々が単なる方便のように思えて来る。美夢さんが単に好きでやっていることに適当な理由をつけているのか……それとも私が知らないだけで、隠された旨味を美夢さんは享受しているのか。そしてそれは、美夢さんがいつも言う私たちの最初の出会いに関係しているのかいないのか。不可解な点は尽きない。
(まあ、美夢さんだしそんな複雑なこと考えてないと思うけどね。この大変な時に美夢さんのことまで疑い始めたら収拾がつかなくなるよ。あ〜タダ同然で守って貰えてラッキーだな〜私は! 体力オバケのつよつよスパダリおねーさんに恩を売っといて良かった〜! 覚えてないけど!!)
そんなわけで、美夢さんに関する疑問は全て棚上げとした。これが現況その2だ。
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そして現況その3だけど……ある意味これが一番厄介かもしれない。
今、私はいつものように登校し、学校の教室というセーフゾーンに入っていく。わざわざ屋上に出たり放課後いつまでも残っていたりしなければ、流石に殺し屋も人目を恐れて寄って来ない。下校するまでの約8時間は私にとって貴重な安らぎの時になる筈なのだが……ここでも問題が発生している。メメちゃんの機嫌がまだ直っていないのだ。
「お、おはよう……メメちゃん」
「……」
教室に入った時、先に席に着いていたメメちゃんと目が合う。私はもごもごと挨拶をするが、メメちゃんから応答はない。
「……ぷい」
それどころか露骨に顔を背けられてしまった。カフェで私が美夢さんと居るのを見てから、彼女は一週間ずっとこんな感じなのだ。こっちをめちゃくちゃ意識してるのは伝わるけど、これ見よがしに無視して来るし弁明の機会すらくれない。私もとうとうカチンと来て、メメちゃんが頬杖をついている机に勢いよくかじりついた。
「あ、あのさっ! いい加減、避けるのやめてくれない? こないだのことなら私が悪かったから……こんなのもうやめようよ」
「……別に」
メメちゃんが言葉を漏らす。久しぶりに反応をくれた。
「別にかおは悪くないでしょ。おねーさんと一緒に居ただけだし、たまたま予定が被って天秤にかけられたんだとしてもウチには文句言う権利なんて……ぷええっ!?」
口を開いたかと思えば回りくどいことを言うメメちゃんのほっぺたを、私は思わず両側からつねっていた。
「拗ねんなーーーーーッ!!」
「んいぃ……な、何すんのぉ〜〜〜」
メメちゃんが私の手を振り払い、うるおいを溜め込んだほっぺたがぷるんっと弾んで元の形に戻る。
「避けてるのはかおの方でしょ? 授業終わったらすぐ帰っちゃうし、昼休みもどっか行ってるし……要は顔合わせたくないってことじゃん。ウチはかおに後ろめたいことなんかないからいつも通りにしてるもん!」
珍しく声を荒げるメメちゃん。ようやく不満を吐き出してくれて嬉しいけど……その言い草は私としてはいただけないぞ。
「何がいつも通りだっつーのよ! メメちゃんがずっと会話を拒否してるから、こっちは言うべきことも言えないの!!」
「友達より恋人を優先しましたごめんなさいなんて話、聞いたってしょーがないもん!!」
《つづく》




