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美夢さんに鋭い声で呼びかけられ、私は慌てて立ち上がる。片側の敵を無力化したということは、退路が確保されたということだ。後は反対側のキャンプ組を捌けるかどうかだけど。
「しっ!」
美夢さんが素早く振り返り、キャンパーの男たちに指弾を放つ。最前列の一人を狙ったそれは、しかし届かなかった。男が手に持っていた金属製のペグを目の前にかざし、銀弾を跳ね返してしまったのだ。
(防がれた! 流石に不意打ちにも限界がある……でも、防げたってことはつまりそういうことだよね!?)
「やはり血影衆の者ですか!」
美夢さんが私を背中に隠し、足を肩幅に開いて臨戦態勢を取る。それに対し、キャンパーたち……いや、変装した刺客たちは手に手にペグを取り、それをこちらへ向かって一斉に投げつけて来た。日常の道具を投擲しているとは思えないほどの速さと正確なコントロールで、鋭利な金属棒が矢のように飛んで来る。
「きゃ……!」
思わず頭を抱えてうずくまる私。が、美夢さんは迫り来る切っ先を前に少しもたじろがない。その手には、昨日玉風との戦いで見せたヌンチャクが既に握られている。
「とあ〜〜〜っ!!」
美夢さんがヌンチャクを旋回させ、飛んで来るペグをことごとく打ち落とす。回転エネルギーの加わった頑丈な棍は、金属製の飛来物ですら物ともしない。
「来なさい、悪漢ども!」
美夢さんが見栄を切って敵を挑発する。残る敵は総勢4人。その全員が拳法独特の構えを取り、私たちめがけて突撃して来る。格闘戦の始まりだ。
まず向かって来た一人の鼻先に、美夢さんの掌底打ちが飛ぶ。文字通り出鼻を挫かれ彼が前後不覚になった所へ、美夢さんはすかさずヌンチャクを横殴りに叩きつける。
「ぎえええええいっ!!」
顎を砕かれ死に体になった相手を、駄目押しとばかりにハイキックで数メートルも弾き飛ばす美夢さんの猛攻。まずは一人片付いた。
残る刺客のうち二人が目配せをし、美夢さんの両サイドから同時に襲い来る。一方からは拳、もう一方からは蹴りが飛んで来る。だが美夢さんはそれぞれ片手で難なく受け止め、お返しとばかりに横一閃の回し蹴りを放つ。目の前の空気が衝撃で薙ぎ払われ、刺客二人がたまらず飛び退く。
(もう一人の敵は……えっ、居ない!?)
と、私は気付いた。美夢さんに応戦している二人を隠れ蓑にして、最後の刺客一人が姿をくらましている。嫌な予感がした私は自分の周囲を見回すが、敵らしき人影は見えない。とは言え、任務を帯びた殺し屋が簡単に逃げるとも思えない。必ずどこかに居る筈なんだ。
(一体どこに……はっ、まさか!)
脳裏をよぎったのは、保健室で私を襲った殺し屋・疾風のことだった。極めて身軽にして俊敏な、まるで忍者のような体捌き。恐らくそれが血影衆の本領なんだろう。あの時の疾風にしたって、最初の奇襲は思いもよらない所からだったじゃないか。
(う、え、かぁ〜〜〜〜っ!!)
経験値と生存本能が奇跡的に噛み合い、私は勢いよく地面を転がった。そして次の瞬間、私が元居た地面の上に刺客が降って来てキャンプ用ハンマーを振り下ろした。空振りの一撃が地面に叩きつけられ、土煙が舞い上がる。まさに間一髪の回避だった。
「ひえっ……!」
もしその地面に自分の頭があったらと、私は想像して居竦んでしまう。そうしているうちに、刺客は再びハンマーを振り上げ私の脳天を狙って来る。
《つづく》




