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「じゃあ、なんで……」
「わたしにとって、香織さんを守ることが夢でした。そのために研鑽を積み、ようやく日本に帰って来たんです。どうか、わたしに貴女を守らせて欲しい」
美夢さんの口調には一切の淀みがない。本気でそんなことを考えているのなら、その方がよっぽどだいそれてると思うけど。
「守るって……何から?」
「貴女を傷つける全てから」
ヒュウ!と愛梨ちゃんが感嘆の口笛を吹いた。そりゃそうだ。こんな歯の浮くような台詞、実際に口にする神経が想像できない。バカバカしいとさえ思う……思うけど、私、今めちゃくちゃ顔が熱い。多分、耳まで真っ赤に染まっちゃってると思う。
(やばいって……ここまで衒いなく言われると流石に効くよ! この人、本当にお祖父様の部下とかじゃないのかな? そんなのじゃなくて、本当にただの他人なら……そんなの、通りすがりの王子様じゃん!!)
不覚にもときめいてしまい、私は思わず顔を覆った。美夢さんが「香織さん?」と覗き込んで来るけど、今まともに返せる状態じゃない。
「……照れてくれるんですか? 嬉しいです。そして、とっても可愛いです。香織さん」
(ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜!! 追い打ちは反則だよ!! そんなこと言われたら私、勘違いしちゃう……本気になっちゃうけど!?)
いいのかな? このまま流れに身を任せていいのかな? 初対面の大人だけど、女同士だけど、何なら今も愛梨ちゃんにがっつり見られてるけど、運命……感じちゃっていいですか?
(これ、次に何か言われたら駄目だ。OK!って返しちゃうやつだ。不束者ですがって言っちゃうやつだよ〜〜〜〜〜!!)
顔を覆っている手を開いてみると美夢さんがまっすぐこっちを見てて、心臓がどくんとひとつ跳ねる。私は震えながら、目の前の王子様の次の言葉を待った。
「いいですよね? 私、貴女を守ります。だから……」
だから? だから何?
「えっちさせてください」
……………………………???????
「は?」
数秒間、思考がフリーズした。何だろう今、ロマンチックなムードからいきなり急転直下で下世話な一言が飛んで来たような気がするんだけど、聞き間違いかな?
「私は香織さんをあらゆる危険からガードします。その対価として、香織さんは私に体を許してください。そういう契約でどうでしょうか?」
聞き間違いじゃなかった。同意事項を確認するように改めて言われちゃったよ。愛梨ちゃんゲラゲラ笑ってるし。いやこれ、全っ然、笑えないからね?
「如何ですか? 香織さ……へぶっ!」
私は手近にあった枕をひっつかみ、尚も口を利く美夢さんの顔面をそれで思いっきりぶっ叩いた。
「ふっ……ふふ、ふっざけんなぁーーーーーーーーーっ!!!!」
最悪だ。かっこいいと思ったのに、ウルウルのメロメロになりかけてたのに、まさか……私の体目当てに自分を売り込もうとしてたなんて!!
「か、香織さん!? どうしたんですか、わたし何か変な……おぶっ!」
「うるさぁーーーーーいっ!! あんたなんか千本ノックを顔で受けて死ねばいいんだぁ!!」
《つづく》