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最終的に吹っ切れて突っ込んでしまうのは美夢さんらしい。でも、それでも自らの意思で肌に焼きを入れるなんて普通は出来っこない。美夢さんにそこまでさせたのって……
「それってやっぱり、私に会いたかったから?」
我ながら自惚れた質問をするものだと思う。でも美夢さんはそんな私の引け目を吹き飛ばすように「はい!」と元気よく答えた。
「それがわたしの、美夢の美しき夢でしたから」
またそういうことを言う。本当に何なのこの人。
「あのさ、私やっぱり思い出せないんだよね。私が美夢さんを救ったっていうやつ。気持ち悪いから教えてくれない? いつ頃とか、具体的に何があったかとか」
「ええ~!?」
美夢さんが我が身を庇い、恥じらうように一歩下がる。何そのリアクション。私そんなにデリカシーのないこと言ったかなぁ!?
「恥ずかしいので……言いません。別に香織さんが気にするほどのことでもありませんし。それよりほら、早く帰りましょう? 今日のごはんは香織さんの好きなものをいっぱい作りますね!」
いやめっちゃごまかすじゃん。一体この人のどんな痴態を私は目撃したというのだろうか。思い出せれば弱味のひとつも握れたかもしれないと思うとちょっと口惜しい。でも、それって逆を言えば私が覚えてないくらい昔ってことだよね。年齢一桁台……少なくとも就学年齢に達するより前の出来事なんじゃないかな。
「ヒントとかないの? あんまり情報共有を渋ると、今後の契約関係に不信感が生まれると思うんだけど」
「うっ……ぐぬぬ」
美夢さんは歯噛みをして少々思案している様子だったが、やがて観念したように口を開いた。
「うさちゃん」
……なんて?
「それがヒントです。これで勘弁していただけませんか?」
いやいや、その一言だけでは何のヒントにもならんから。時間にも、場所にも、何にもかかっていない。でも美夢さんにとっては、それが象徴的なワードだってことなのかな。怪訝な顔をしている私を見て美夢さんはクスッと笑うけど、もうこれ以上話す気はないらしい。
「もし思い出しても、何も言う必要ありませんから。これはわたしの胸に仕舞っておけば事足りること……今のわたしを作っている大切な思い出。ただそれだけですよ」
胸に手を当て、慈しむようにそっと目を細める美夢さん。そんな顔されたら余計気になるよ。
「私としてはかなり不服なんだけど……まあいいや。許してあげる」
「ご理解いただきありがとうございます」
美夢さんの言うことにも一理はあるんだよね。私と美夢さんはあくまで依頼者とボディーガードの関係でしかない。彼女がどんな過去を持っていようが、どんな思いを抱えていようが契約内容には全く関係のないこと。でも、それだけでは収まらない私が居る。
(美夢さんの内面を知っておけば、いつか私への好意が冷めた時に情に訴える手掛かりになる。そうすれば今の有利な関係を少しでも長続きさせられるかもしれない。戦いはいつまで続くかわからないんだ。使えそうな手札は前もって確保しておかないとね)
如何にも合理的な理屈で、自分自身を納得させる私。うさちゃんという言葉が何を意味するのかはまだ見当もつかない。でも林美夢という不思議な人物のことを知るちょっとした手掛かりとして、私はこれを頭の隅に置いておくことにした。手渡されたジャージを着込み、森を抜ける道を歩み出す。
(……彼ジャージ、ってやつ?)
う~ん何を思ってるんだ私は。そもそも彼じゃなくて彼女だろうに。
《つづく》




