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第二の暗殺者・玉風を下した後、美夢さんと私は森を抜けて寮へと帰って来たわけだけど、その時の一幕をここで紹介させて欲しい。額の割れた美夢さんにハグしていたために鮮血でドロドロになってしまった私が、如何にして家路に就いたかを。
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「どどどどどどうしましょう香織さん!?」
戦いのほとぼりが冷めた後、私の帰宅に支障が出ているのを美夢さんが認識するのにそう時間はかからなかった。かく言う私も、ここから寮までの距離と道順、この姿を誰にも見られることなく帰り着ける確率などを計算して頭を抱えている。
(やばいやばい。こんな姿で歩いてたら絶対通報される! 制服の前面がまるまる血染めだもん……美夢さんだから何でもないだけで、常識的に考えれば人一人死んでる規模の出血量だよねぇ。百人に聞いたら百人が何かしらの事件性を疑うよ! 暗くなるまで待てば遠目にはバレない? いやいや寮母さんの目を掻い潜るのは流石に無理だ……これもしかして詰んだ?)
「あのう……」
私が無言で腕組みして考えていると、美夢さんが不安そうに袖を引っ張って来た。
「良かったら、わたしが着替えを取って来ましょうか? まだ授業中なので寮周辺は静かでしょうし、きっと気付かれずにやれますよ」
「う~ん……」
確かに、美夢さんの身体能力を以てすれば窓から私の部屋に忍び込んでたんすを漁るのはわけもないことだろう。実際、昨夜も買い物のためにそうやって出入りしたようだし。私も、こういう非常の場合にたんすの中身を他人に見られるのは別に構わない。どうせ大したものも入ってないしね。だけど……
「……今は、あんまり離れて欲しくないかな」
「えっ」
私の一言に美夢さんが一気に赤面し、俯いてもじもじとする。いや、ここで照れられても困るんだけど。こちとら刺客に狙われてる身、さっきだって殺される寸前だったわけで、こんな森の中で一人残されたくはないって意味だよ。まあ今の護衛契約は美夢さんの関心が私に向いていることに立脚してるからその反応は安心できると言えるし、ムキになって訂正することでもないんだけどさぁ。
「美夢さんって危機感ないよね」
とりあえず今は一言嫌味を言うだけど済ませといた。美夢さんはいまいち意図を掴みかねていたようだけど、やがてポンと手を打った。どうやら別件でひらめきがあったらしい。
「だったら、わたしのジャージをお貸ししますよ。ちょっと返り血は飛んでますが本当にちょっとですし、青地で目立ちませんから大丈夫です」
「ああ、それ冴えてる……って! ちょっと待てオイ」
申し出は助かるけど、確か美夢さんって素肌にジャージ派だったよね? 昨日保健室で上を脱ぐと、そのままブラが顔を出した記憶がある。美夢さんは自分の体を見せることに抵抗ないのかもしれないけど、見る私は結構気にするぞ。美夢さんスタイル良いし肌スベッスベだし、今ここで裸を拝んで平静を保つのは無理だ。
「では失敬して」
とか何とか思ってるうちに、美夢さんはさっさとファスナーを下ろしにかかっていた。
「わーっ! 美夢さん駄目っ、せめて心の準備をさせ……て、アレ?」
目を覆いかけた私だったが、上をはだけた美夢さんの姿を見てその手は止まった。ジャージを脱いだ彼女の上半身は黒のタンクトップを纏っており、なめらかなデコルテと引き締まった腕だけが木漏れ日に映えていた。
(……かっこよ)
これは、これで。
《つづく》




