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2-13

「す、すみません。気功の活用法もちゃんと学んだつもりなのですが、成功率はまちまちなんですよねぇ。どうやらあんまり向いてないみたいで!」


「言ってる場合か! 早く止めないとショック死するから!」


 私は美夢さんに駆け寄ると、持っていたハンカチを美夢さんの額に当てがった。ぐっと傷口を押さえて止血を試みたそれは……なんとものの数秒で真っ赤に。


(わ、私のお気にのハンカチがあああああああああああっ!!!!! ふざけんなよお前オイ!!!!!)


 何かもう雑巾絞りにできそうなぐらい血でずぶずぶになったハンカチを手に、私は完全にテンパってしまう。小学生の頃からポッケに入れてた愛用のハンカチを駄目にされて正直泣きっ面だけど、目の前の人命も捨てては置けない。何とか止血しないと……もっとでっかい布で、ぎゅっと圧迫して……。


(ええい、ままよっ!)


 中腰で立ってる美夢さんの膝裏を私は蹴りつけ、強制的に跪かせた。「わちゃっ!?」と間抜けな声を出す美夢さんに構わず、そのまま正面に回って彼女の頭をぎゅっと抱き締めた。


「んひっ……!」


 身を震わせる美夢さん。それを精一杯の腕力で押さえ込み、私は抱擁という名の羽交い絞めを続ける。


「かおり……ひゃん?」


「動かないで」


 私の制服に血がどんどん染み込み、白かった生地を赤く染めていく。本当はバスタオルとか当てたらいいんだろうけど、私が今持ってるでっかい布ってこれしかないんだよね。森の中じゃ包帯なんかもないから人力で固定する。これが今取れる中では最適な止血手段だから。その筈だから。


「……香織さん、ふ、服が汚れます」


 美夢さんはまんじりともせず私の行為を受け入れている。両手が行き場を失ったまま硬直してるところを見ると、私に抱き着かれて照れてるんだろうか。


「もう手遅れだから。……気が咎めるなら、これが今回の報酬ってことにしてくれる?」


「あっ……ええ、ええ! 勿論です」


 私のお腹のあたりがもぞもぞし、美夢さんが満面の笑みになったのがわかる。


「幸せです。香織さんを守れた上、ハグまでしていただけるなんて。うふ……香織さんのお腹、柔らかくて気持ち良い。控えめで可愛らしいお胸も、抱かれ心地なめらかで……むぐぐ」


 感激して余計なことまで言い始める美夢さんを、私は強く締め上げて黙らせる。全くもう、くすぐったいからあんまり喋らないでよね。って言うか、最初はえっちさせろって話だった筈なのに、この人はこれで満足なのだろうか。別に私の体なんて大した魅力もないと思うけど、今回も命をかけて私を守ってくれたこの人の一体何がこれで報われていると言うのだろうか。私の性格が悪いからか、それがさっぱりわからない。


(本当、変わってるよ美夢さん)


 呆れたからか、それとも修羅場を乗り切って気が抜けたからなのか。屋上でトゲトゲしていた私の気持ちはすっかり丸くなっていた。美夢さんもいつしか両手の緊張を緩め、そっと私に寄りかかって来ている。遠く鳥の声がする森の中、密接なひとときが流れていく。


(……あったかいなぁ)


 どれくらいそうしていただろうか。美夢さんが私の腕をするりと抜け出し、額を袖で拭いながら笑顔を向けて来る。既に出血は止まっており、心なしか傷口まで塞がりかけてるような。


「ありがとうございます。香織さんのおかげで早く治りそうです」


 そうは言うけど、美夢さんの心が落ち着いて気功とやらが効いて来ただけじゃないのかな。まあ、気持ちは受け取っておくけどさ。


「制服一着駄目にしたんだから、精々感謝してよね。疲れちゃったから早く帰ろ」


「はい! お夕飯は何にしましょうか……特売に行き損ねてしまったので有り合わせにはなりますが、スタミナのつく物を考えますね。昨日腕を振るえなかった分も、楽しみにしといてください!」


「ああ、そっか」


 昨日は寝落ちしたから夕飯抜きだったんだ。成り行きで美夢さんと暮らすことになったけど、まだ起きて朝ごはん食べるくらいしかやってないんだよね。


(待って? と言うことは……真の同棲初日はこれからってこと!?)


 自らの認識の甘さに気付き、私は戦慄した。ただいまも、おかえりも、夕飯の支度も、お風呂も、もちろん就寝だって、全てはこれからなのだ。あの寮の狭い部屋で、美夢さんと二人暮らし。ドキドキの一夜が始まろうとしていた。


~~~


 因みに、倒れていた玉風は私たちが色々やっているうちにどこかへ消えていた。仲間が持って帰ったのか自分で逃げ帰ったのかはわからないけど、殺し屋への尋問はまたも失敗。自分の迂闊さが恨めしいよもう!


《つづく》

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