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保健室で下着姿まで見てるからか、美夢さんがシャワーを浴びている姿が余裕で想像できてしまう。血色の良い肌にお湯が跳ねて、すらりとした背中を、脚を流れ落ちて……湯上がりのほこほこした顔とか、しっとりした髪とか……
『次は貴女がシャワーを浴びる番ですよ、香織さん』
そんな幻聴が聞こえて来て、私はぶるぶると被りを振った。冷たい水を顔に何度もぶっかけ、火照りを冷ます。あんな人を相手に変なこと考えるんじゃないよ私は。
(およそ実現不可能とは言え、えっち前提の護衛契約なんかするから意識しちゃうんだ。それ以上の意味なんてない……大人の癖に女子高生に執着する変質者にドキドキしたりなんて……)
「さあ香織さん、どうぞ召し上がってくださいね!」
洗面所から戻ると美夢さんはひとりでに立ち直っていて、ちゃぶ台には二人分の朝食が並べられていた。ごはんに味噌汁、ベーコンエッグと生野菜が揃った如何にもな感じの朝ごはんだ。
(あっ……なんか、良いかもぉ……!)
湯気立つそれらを見た瞬間にお腹がくぅ〜と鳴って、私は膝から崩れるように食卓に着いた。
「阿弥陀仏!」
向かいに座った美夢さんが合掌するのに合わせて、私も箸を手に取る。そう言えば美夢さんは山奥のお寺で暮らしてたんだっけ。自給自足で料理とか慣れてるのかな。
「……あ、おいしい」
お味噌汁を一口すすると、自然にそんな言葉が出た。おいしいと言ってもそんな飛び上がるような美味じゃない。多分、いりこか何かで出汁を取ってる、豆腐とわかめが入った普通のお汁。でも、すごく安心する味だ。向かい側に座ってる美夢さんは、何故か胡座の脚をばたつかせて悶えてるけど。
「ん〜〜〜! 添加物の味、最高! 幸せ!」
ほっぺたが落ちるんじゃないかってくらいの勢いで、お味噌汁をすすり込む美夢さん。自分で作った料理ってそんなにおいしいものなの?
「いやぁ、少林寺では質素が第一でしたし、肉なんかの生臭もアウトなのでとにかくごはんの味が薄くて! 顆粒出汁なんて夢のまた夢でしたから……もう感激ですよ」
あ、顆粒出汁なのね。意外とお手軽に作ってた。しかしお寺の生活ってやっぱり厳しいんだ。
「ねぇ、心の底から疑問なんだけど、そんなに苦労してまで私とえっちなことしたかったの?」
「……香織さん、食事中ですよ?」
露骨に眉をひそめる美夢さん。なんで私が下品みたいな感じになってるのか全然納得いかないけどね。昨日からえっち言いまくってるの美夢さんだからね。
「コホン……そういうことはあくまでご褒美としていただきたいだけです。10年間の修行に耐えて来たのは、ひとえに香織さんを守りたいという思いあればこそ……それがわたしの夢でしたから」
夢。昨日も美夢さんはそう言っていた。誰かを守るのが夢になるってそんなのあり得るのかな。価値観が違いすぎて私にはさっぱりわからない。結局えっちを対価に求めてるじゃんって突っ込みたくもなる。
(でも、本当に澄んだ目でこういうこと言うんだよねぇ。この人、本当にわからない)
コメントする言葉が見つからないまま、私は目玉焼きを一箸食べる。塩こしょうがしてあって、そのままでもおいしい。つばの湧くままに白米をつまみ、口に放り込んで一緒に咀嚼する。チラッと時計を見ると、朝のHRまでにはまだ余裕がある。シャワーを浴びる時間を差し引いても、ゆっくり食べられそうだ。
「んふふ、おいしいですか? ちゃんと香織さんのお口に合いますか?」
早々に自分のを平らげた美夢さんが、もじもじしながら私に聞いて来る。そんな期待の眼差しを向けられると、食べにくいし答えにくいんだけど。
「……まあ、私よりは家庭科で良い点取れると思うよ。多分だけど」
《つづく》




