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2-1

 夢を見た。夢の中の私はひどく怯えていて、周り全部が敵に見えて……まるで何にでも吠えつく癖に手をかざされると這いつくばる、哀れな子犬だった。


 そんな私の夢に、何かが現れた。大きくて、むくむくしていて、あったかい、私の知らない変な生き物。そのむくむくのお腹に思い切り抱きついて、毛並みをもてあそんで甘えているうちに、私の不安は少しずつ和らいで……ふと気付いた。


(この子も震えてる。私と同じように)


~~~


 目覚ましが鳴った。昨日は色々ありすぎて疲れ果てたので、日が沈むと同時に眠ってしまった。驚異の13時間睡眠、怠惰ここに極まれりって感じだけど、あんなことの後だもん。私を咎められる者は居まい。


「……腹減ったぁ」


 口呼吸でパサパサの喉から、そんな独り言が漏れ出る。そのまま布団の中でもぞもぞしていると、はたと物音がして……お出汁の匂いが鼻孔をくすぐった。


「あ、起きましたか?」


 続いて声が聞こえて来る。主人の起床を察知したゴールデンレトリバーのような、弾んだ声。驚いて跳ね起きると、台所に美夢さんが立っていて、こちらを振り返っていた。


「おはようございます、香織さん。もうすぐ朝ごはん出来ますので、顔でも洗って待っててくださいね」


「……」


 寮の手狭な流し場に食材や道具を広げ、美夢さんはせかせかと手を動かしている。手頃な台にカセットコンロまで置いて、フライパンの上で卵が軽快にはぜている。私が絶句していると、再び美夢さんが振り向いた。


「まだおねむですか?」


「いや大丈夫……何から突っ込んでいいか迷ってただけ。なんで当たり前のようにごはん作ってんのとか、そもそも私の部屋にそんなお鍋とかフライパンとかあったっけとか、冷蔵庫も空だったよね、とか……」


「空じゃありませんでしたよ。麦茶と餃子のタレ、あとプリンが」


「あ〜はいはい、そういうのいいから」


 人の貧相な食生活をわざわざ詳らかにしなくてよろしい。お惣菜の小袋タレ余らせるタイプで悪かったわね。


「プリン、食べてませんからね?」


 うるせぇ。わかっとるわ。


「昨日、香織さんが寝てからこっそり買い出しに行ったんです。近くに良いスーパーがありまして、折角なので香織さんに元気をつけて貰おうかと!」


「買い出しって」


 まさか、外が暗くなったのを見計らって窓から飛び出し、買い物をしてまたよじ登って来たというのか。表から出て行くわけにも行かないだろうけど、見た目に怪しすぎる。てか、それより何より


「……ボディーガードって、寝込みを守ってくれるものだと思ってたんだけど?」


「えっ」


 得意げにしていた美夢さんが途端に青ざめ、菜箸を取り落とす。と思ったら膝で器用に蹴り上げて空中キャッチ、その手に取り戻す。ショック受けながらそんな小技披露しなくていいから。


「た、確かに……わたしの留守中に香織さんが襲われたら……そう言えば窓の鍵まで開けっ放しで……あわわ、わたしったら浮かれてとんでもないことを……!」


(この人、フィジカル強いけど結構ポンコツだな?)


 狼狽えている美夢さんを尻目に、私は洗面所に顔を洗いに行った。ユニットバスの浴槽には水滴が広がっており、昨夜使われた痕跡があった。別にいいけど、美夢さんが勝手にシャワーを浴びたらしい。


(美夢さんが、ここで……)


《つづく》

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