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「できればもう二度と来ないで欲しいのですが……あくまでも香織さんを諦めないというのであれば、お相手しましょう。そのためにわたしはここに居るのですから」
「ははは! 我らを相手に勇ましい仁も居たものだ。貴公、名は?」
「美夢。林美夢」
「我は旋風。血影衆随一の殺手、旋風と覚えて貰おう。貴公の倒したこやつは疾風という。では林美夢、また会おう!」
黒衣の男……旋風はそう言い残して窓から飛び出し、瞬く間に私たちの視界から消える。私が圧倒されて何も言えずにいると、突然美夢さんが私の肩にしなだれかかって来た。
「だぁ~! き、緊張しました。あの人、絶対強いじゃないですか。バキバキの強者ですよ。帰ってくれて助かりました……」
「ええっ!? いつでも来いみたいなオーラ出してたじゃん。そんなに余裕なかったの!?」
「ありませんよ〜! いくら少林寺で鍛えたからって、実戦は初めてなんですから!」
「ちょちょちょ待って待って、初めてだったの!? 如何にも場数踏んでますよみたいな顔してたのに!?」
信じられない。初めての実戦、それも本当の殺し合いで、私のために命を張ってくれたなんて。美夢さん……この人の覚悟はどこから来るんだろう。
「どうして、私なんかにそこまで……」
私がそう聞こうとした時だった。窓の外が俄に騒がしくなり、人の集まって来る気配がした。旋風の言った通り、誰かが物音を聞きつけたのだ。
「香織さん、ひとまずここを離れませんか? 警察の方に来られると、そのぉ……わたしは……」
言葉を濁す美夢さん。確かに、端から見れば美夢さんは丸っきり部外者で、どう見ても怪しい。保健室がめちゃくちゃで窓まで割れてるこの事態について、厳しく問い詰められるのは目に見えている。ひょっとしたら拘留されてしまうかも。私的にも、流石にそれは気が引けるかな。
「わかった。私の部屋に行こう。寮だから誰も居ないし、窓から入れば寮母さんにも見つからないから。警察の事情聴取とかは……愛梨ちゃんに任せる!」
「えっ、いいんですかそれは。起き抜けにそれは可哀想では」
大丈夫大丈夫。愛梨ちゃん荒事には慣れてるから何とかしてくれるって。いつしかいびきをかき始めた愛梨ちゃんをベッドに寝かせ、私たちはさっさと保健室を後にした。
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集まって来る野次馬や先生たちの間をすり抜けて、私たちは寮へとたどり着いた。私の部屋は二階なので、一度私だけ帰宅し、窓を開けて下から美夢さんを迎え入れる。思った通り、美夢さんは壁を駆け上って難なく入って来てくれた。
「ふう……ああ~疲れた。何なのよ今日はもう」
放課後になってから色々ありすぎて、私はベッドに倒れ込んだ。美夢さんはちゃぶ台の前にちょこんと正座し、そわそわと辺りを見回している。
「……ちょっと、あんまり人の部屋をじろじろ見ないでよ」
「えっ、あっ、す……すいません。香織さんがいつも過ごしてる部屋だと思うと、そのぉ……色々気になってしまって。えへへ……」
えへへじゃない。普通にキモい。やっぱりこの人変質者なのかな……そう思えて来て文句のひとつも言いたくなったけど、私はその言葉を飲み込んだ。今言うべきはそれじゃないよね。
「さっきは、ありがとう」
ベッドから起き上がり、改めて言う。
「ボールから守ってくれて。殺し屋を追い払ってくれて。本当にありがとう。これでも一応、感謝してるんだからね」
《つづく》




