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銀行に入った彼らはまず店内の人間の数を素早く確認する。銀行内には五つの窓口があり、その内三つに行員が控えていた。その奥には机で業務をしている行員が五名ほど確認できる。客は、三つの窓口それぞれに年寄りが一人ずつ。待合椅子には、作業着を着た中年男性とスーツを着た男性がいるだけだった。そして店の入口には年老いた警備員が一名。
突然入ってきたマスクを付けた集団に、警備員が不審そうな顔を向け、声を掛けようと口を開きかける。それを合図にするように、マイクが銃を抜き、天井に向かって引き金を引いた。
「派手にいくぜ! ショウタイムだ!」
響き渡る銃声。
突然の轟音に、行員や客から悲鳴があがる。マイクはカウンターに素早く駆け上がると、行員たちに銃を向けた。
「全員動くんじゃねえ、一ミリたりともだ! 両手を上げて前に出ろ! ちょっとでもおかしな真似してみろ。その場で容赦なく頭を吹き飛ばすからな!」
マイクが叫ぶ。シェリーも銃を抜き、警備員に突き付けながら、客に向かって叫ぶ。
「手前らも全員両手をあげな! 頭の後ろで組んで跪くんだよ! さっさとしな! 殺されたくないならね!」
コウも銃を構えながら、注意深く行員を観察する。銀行には机や壁など、至る所に通報ボタンがある。それらを押させない為に、不自然な動きをする人間に目を光らせる必要があるのだ
マイクは行員と客を一列に並ばせ、カウンターの前に座らせた。皆一様におびえた表情でこちらを見ている。
「ようし、皆良い子だ。さて、この中で一番偉い奴。どいつだ? 出てこい」
マイクは銃を向けながらそう言った。その言葉を聞いて、行員の一人がゆっくりと手を挙げる。
「わ、私が責任者だ」
「よし、お前は俺と一緒に来るんだ」
「何をさせるつもりだ」
「金庫を開く係に決まってんだろ。俺のをしゃぶらせる為に手前を指名したと思ってんのか?」
「……分かった。案内する」
「素直な奴は好きだぜ。ピンク、ブルー、人質を見張ってろ。入口も客が来ないか、ちゃんと気を付けろよ」
マイクは、名乗り出た行員の腕を掴んで、後ろに捻りあげると、その後頭部に銃を突きつけた。そして二人はゆっくりと銀行の奥へと歩いていった。
マイクを見送ったコウは人質を一瞥しつつ、窓から外を伺う。何事も無く行き交う通行人の様子から、銀行を襲ったことはバレていないようだった。
「――ほら、早く出すんだよ!」
背後からシェリーの声が響く。コウが振り返ると、シェリーが客の一人に銃を突きつけながら詰め寄っていた。
「……おい、何やってんだ」
「何ってボーナス稼いでんの」
コウが思わず尋ねると、シェリーが当然といった様子で答えた。
「稼ぎは一円でも多い方がいいジャン。おら、さっさと財布出しな!」
「狙うのは金庫のブツだけだってレッドが言ってただろ」
「何サ、アタシに意見する気?」
シェリーが不満そうな声を漏らしながら振り返る。コウは小さくため息を吐きながら言葉を続ける。
「銀行に被害を与えるのと客に被害を与えるのは全然違うんだよ。レッドもそれを分かってるから獲物だけが狙いだって強調したんだろ」
「うっさいな! 素人のくせにプロの仕事を語るんじゃないヨ! あんたは言われたことだけやってればいいの!」
「……それじゃあ俺の仕事をやらせてもらおうかね」
コウはそう言うなり、手に持つ銃の撃鉄を起こし、シェリーに向けた。突然のことに、シェリーは思わず体をすくめる。
銃を突き出すコウ。しかしその銃口はシェリーに向けられたものではなかった。
「――おっと、変な真似はやめときな。大人しくしとけ」
コウはシェリーの背後――スーツを着た男に向かってそう告げた。シェリーが振り返ると、スーツの男は懐に手を差し込み、何かを取り出そうとしている状態で固まっていた。
コウが銃口を動かし腕を引き抜くよう促す。男は小さく頷きならがゆっくりと腕を動かし、やがて懐から小さなナイフを取り出した。
「護身用か? 半端な武装はやめた方がいいぜ? 武器を持ってるとこっちも全力で排除しないといけなくなるからな」
コウはそう言うなり、男からナイフを取り上げ、カウンター奥へと放り投げた。そして銃の撃鉄を戻し、シェリーに向き直る。
「まぁ、こういう変な隙が生まれるから余計なことはするなってことだ」
ふふんと鼻を鳴らすコウ。それに対してシェリーは顔を俯かせ、体を小さく震わせていた。
「……大丈夫か?」
コウは心配そうにシェリーの顔を覗き込む。それに答えるようにシェリーはばっと顔を上げると突然コウに抱き付いてきた。
「うええん、殺されるところだったよおおおお! ありがとう、ありがとう、マイフレンドオオオ!」
マスクの上からでも分かるほどに泣きじゃくるシェリーに、コウは度肝を抜かれ固まってしまう。人質達も呆気にとられた様子でコウとシェリーを見ていた。
「……あ、あぁ、落ち着けって。いや、刺されなくて本当良かったよ」
人質達の視線に気恥ずかしさを感じつつ、コウはシェリーを宥めるように背中を優しくぽんぽんと叩いた。