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Lawless Hunter ~強盗へ行こう~  作者: 佐久謙一
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 いくつもの車が並ぶ地下駐車場。そこを一人の男がコツコツと足音を立てながら歩いていた。

 ジェルで固められた髪とほんのり日焼けした精悍な顔立ち。見るからに高級そうなスーツに身を包み、袖から覗く腕時計も、煌びやかな装飾から金がかかった物であることは容易に想像できた。

 男は時間を確認する。時計の針は五時三十分を指していた。

「随分早い上がりだな。もう仕事は終わったのか? ミスターハヤセ」

 突然声を掛けられ、ハヤセと呼ばれた男の顔が強張る。眉間に皺を寄せたまま顔を上げると柱の影に大柄の男が立っていた。

「……ミスターサンドロ。職場に来られると困るのですが」

「おう、そうだな。ここはお前のカタギの会社だったな」

 サンドロはニヤリと顔を歪ませハヤセを見据える。

「副業として会社員もこなすとは精が出ることだ」

「用件があるなら手短にお願いしますよ。これから外回りなので」

「あぁ、お前が動かした二人組の事さ」

 サンドロの言葉にハヤセの眉根が一瞬動く。

「……あぁ、あの二人ですか」

「俺の銀行を襲った犯人が見つかったって?」

「えぇ、その通り。奪われたブツと共にすぐにお届けしますよ」

「こっちにも全く情報が入ってこないのに随分と早く動かせたものだな」

「こちらにも独自の情報源というものがありますので」

「初耳だな」

「あなたとて自分の手札を全て公開しているわけではないでしょう?」

「確かにな。まぁ、俺のは自分の手札と呼べるかどうか分からんが」

 言葉の意味をはかりかね、ハヤセは怪訝な顔をする。その反応に満足するようにサンドロは鼻を鳴らす。

 その時、鈍いエンジン音と共に、奥から一台の車が入ってきた。車はしばらく駐車場内をさまよった後、まっすぐこちらに向かってきた。

「俺達の手札が来たようだな」

「何を言っているのです?」

 車が彼らの傍に停まった。そして勢いよく扉が開かれ、中から二人の男が降りてきた。

「遅れたか?」

「いや、時間通りだ。クソッタレハンター」

「久々なのに愛想悪いね。息子さん元気?」

「殺すぞ貴様」

 二人組とサンドロのやり取りにハヤセはますます怪訝な表情になる。そんなハヤセを尻目に、二人組は車からビニール製の大きな収納袋を取り出し地面に放った。袋は全部で二つあった。

「ミスターサンドロ? 彼らは?」

 見慣れない人間の登場に、たまらずハヤセが尋ねる。サンドロは大きく鼻を鳴らすと二人組をあごで指し示した。

「知ってるものと思ってたがな。こいつらはハンターだ。名前はレイとコウだったっけか」

「ハンター……」

 ハヤセの表情が険しくなる。

「そしてこいつらが今回の事件の犯人だそうだ」

 サンドロが足元の袋に手をかけファスナーを開く。そこから現れたのは手足を拘束され、口にテープを貼られた男だった。その男の顔を見た瞬間、ハヤセの表情がますます険しくなる。

「……サンドロ、彼は――」

「あぁ、手前も見覚えがあるよな」

 サンドロはもう一つの袋も開く。そちらも同様に拘束された男が納められており、ハヤセは目眩を起こしたように足元をふらつかせた。その反応に満足するようにサンドロはニタリと笑いながら口を開く。

「お前もまさかと思うよな? 身内から犯人が出るとは非常に残念だ。だが安心しろ。金塊も無事で、こうして首謀者も捕まえた。後はこちらで内々で処理するだけさ」

 サンドロは肩を揺らして笑う。そんなサンドロにハヤセはつかみかからんばかりの勢いで睨みつけた。

「ふ、ふざけるな……」

「あん?」

「ふざけるなと言っているんだサンドロ! 彼らは私の部下だ! こいつらは犯人ではない!」

 激高するハヤセに、サンドロはおどけたように首を傾げる。

「何で犯人じゃないって分かるんだ?」

「当然だ! 貴様の銀行が襲われた時、彼らにはアリバイがある!」

「アリバイだぁ?」

「あぁ、そうとも。それに銀行の監視カメラの映像も確認したか? 私の部下とは似ても似つかない連中だったはずだ。どんなガセに踊らされたか知らないが、証拠も無しに私の部下を拘束するとは……今すぐ彼らを解放しろ!」

「お前は何か勘違いしているようだな」

 サンドロはそう言うなり、突然ハヤセの顔面に拳を叩きつけた。鈍い音が響き渡り、ハヤセはたまらず地面に倒れる。

「手前がやったことは分かってんだよ。つまらねえ工作仕掛けやがって。それに俺達はいつから警察になった? 証拠? アリバイ? そんなものが俺達の前で意味を成すと思うか? 疑わしきものは全て始末するのが俺達のやり方だ」

「き、きさ、ま……!」

 サンドロに殴られたハヤセは、鼻から血を噴き出しながらサンドロを睨みつける。

「貴様、私にこんなことをして……ただで済むと思うなよ……! 私は貴様以上に金を稼いでいるんだからな! このことはボスに言わせてもらうぞ!」

 ハヤセは言葉を絞り出すようにして言った。そんなハヤセの様子にサンドロは呆れたように首を横に振る。

「殴り返す度胸もねえ根性無しが。幹部の質も下がったもんだぜ」

「古参だからといつまでもこんなやり方が通ると思うなよ……!」

 ハヤセはポケットから取り出したハンカチで顔を抑えつつ、よろよろと立ち上がる。

「話は終わりか? 私はまだ仕事中なのでな! いつまでも暇人の相手はしてられん!」

「こいつらの事はもういいのか?」

「私が何を言おうが聞き入れるつもりも無いのだろう? 勝手にしろ!!」

「冷たい野郎だ。まぁいい。組織の為にしっかり稼いできな」

 サンドロの言葉に、ハヤセは荒々しく息を吐きながら近くの車に乗り込む。そしてそのままけたたましいエンジン音と共に走り去っていった。

「……終わったか?」

 成り行きを静かに見守っていたレイはサンドロに尋ねる。返事とばかりにサンドロは鼻を鳴らした。

「身内のゴタゴタを見られちまったな」

「奴も幹部の一人か」

「あぁ、最近入った外様だがな。いくつものフロント企業を経営している経済ヤクザだ」

 そこまで言ってサンドロは眉をひそめて口を閉じる。内部のことを喋りすぎたと思ったのだろう。

「わざわざ言うまでもないだろうが――」

「安心しろ。ハンターの守秘義務は絶対だ。今日見たことは公言しない。お前のやらかしも外には漏れていないだろう?」

 レイの言葉にサンドロは苦々しい顔で唸る。

「もういい。さっさと金塊を渡せ。手前らの顔なんて一秒も見ていたくねぇんだ」

「同感だ」

 レイはそう言って、車から金塊の入ったケースを取り出し、サンドロに手渡す。

「これで貸し借り無しだな」

「もう二度と電話してくんなよ」

 サンドロとレイは互いに睨み合い、ふんと同時に鼻を鳴らした。

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