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移動中、マイクがスマホから依頼主へ連絡すると、明らかに合成された音声で受け渡し場所が告げられた。そこは人通りの多い駅前の広場だった。
そういう訳で、マイクとシェリー、そしてコウの三人は、待ち合わせ場所としてよく利用されている駅前の銅像の前にいた。マイクが金塊の入ったケースをしっかりと握り、シェリーとコウがその左右を固める形で立っている。周りに視線を向けると、マイクらと同様に待ち合わせをしている若者や、駅を出入りする人等が無数に行き交っている。
『なかなか面倒な場所を指定してきたな』
コウの耳に取り付けられたインカムからレイの声が聞こえてくる。コウが視線を右に向けると、そこにはガラス張りの喫茶店があり、そこからこちらを監視しているレイの姿が見えた。
『こっちを見るな。サングラスをしていないから視線を読まれるぞ』
「そう言うおっさんも、もう少し若作りして店に入った方が良かったんじゃねえの。正直めっちゃ浮いてるぞ」
レイが今いる喫茶店は、花飾りの散りばめられたカフェボードや、全体的に明るい色を使ったテーブルが並んだ、明らかに若者向けの喫茶店だった。周囲の客も若い女性やカップルばかりであり、そんな中、殺し屋のような鋭い目付きの中年がいるさまは異様としか言いようがなかった。
『その場所を見通せる場所がここしかなかったんだ。仕方あるまい』
「もしかしたらそれも計算ずくかもな。ていうか、ここ人が多すぎてあまり派手なこと出来ないな。向こうがちゃんと取引するつもりで来るならいいけど」
『俺の予想だが金塊の回収にはそこまで執着はしていないだろう。もしそうなら逃走時に何かを仕掛けるのが手っ取り早いからな。何よりその金塊はサンドロから盗んだという証拠にもなってしまう』
「それじゃあ回収に来ない可能性も?」
『可能性としてはあるが、五千万をみすみす手放す可能性のほうが低いと踏んでる』
「確かに。何かしらに換金する手段は持ってるだろうしな」
『とにかく拘束は速やかに行え。通行人に怪我でも負わせたらまた賠償金が増えるぞ』
「はいはい、肝に銘じておきますよ」
その時、インカムの奥からスマホの着信音が聞こえてきた。発信源はレイのスマホだ。
『……サンドロからの電話だ』
レイの言葉を受け、コウは眉をひそめる。
「何で今頃になって?」
『さあな。とりあえず通話をそちらでも聞けるようにする』
インカムからごそごそと音が聞こえる。そして少しの雑音の後、スマホの着信音がインカムから直接聞こえてきた。
「オーケー、聞こえる」
『了解。電話に出るぞ』
レイの言葉と共に着信音が途切れた。




