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「――そういうわけでお前らには依頼人を捕まえる手助けをしてもらう」
レイは車を運転しながら事のなりゆきを淡々と説明した。サンドロと直接交渉したことは伏せ、コネのある仲介屋と交渉した――と適当にでっちあげた。
後部座席では拘束を解かれた兄妹が憤った表情で頷いている。
「おう、やってやるよ! よくも俺達を嵌めやがって! ぶっ殺してやらあ!」
「アタシらを舐めたらどうなるかタップリと味わわせてやる!」
そう息巻く兄妹に、助手席に座るコウは、振り返りながら笑顔を浮かべた。
「まぁでも二人共良かったじゃねえか。殺されずに済む方法が見つかってさ」
「うるさい馬鹿! アタシあんたのこと許したわけじゃないぞ! 拘束する時、変なところ触りやがって!」
シェリーは怒りの言葉と共にコウの座席を蹴り飛ばした。コウは呆れたように肩をすくめる。
「おいおい、お前らの命を救うよう提案したの俺だぞ。少しは感謝しろよ」
「アタシらを警察に売り飛ばすつもりだったくせに!」
「初犯だろ? 執行猶予付くって」
全く悪びれた様子の無いコウに、シェリーは噛みつかんばかりの勢いで唸る。
「まぁ、落ち着きなシェリー。裏世界の稼業ってのは騙し騙されが日常なんだ」
隣のマイクがシートにもたれかかりながら言った。
「確かに俺もこいつを許せねえ。だがこいつは裏切り者であると同時に、俺達の命の恩人でもあるんだ。今の世の中、普段は気の良いことばかり言って、いざという時にはそいつを守らねえって糞野郎ばかりだが、こいつは違う。中々の男だぜ。妹とのファックを許してもいいくらいだ」
「勝手に許可すんな!」
「マイク。俺にだって選ぶ権利はあるぜ? 胸も尻も貧相で好みじゃねえよ。肌も汚いし」
「んだとコラ!」
「まぁ、そいつは同意だな。こいつ野菜食わねえでお菓子ばっか食ってるし、基本外に出ねえでずっとパジャマでゴロゴロしてるからな。この前なんか三日も風呂に入らねえでマッサージ器で何やってるのかと思えば――」
「アーーーッ! アーーーッ! アーーーッ!」
シェリーが奇声を上げながらマイクに飛び掛かり、首を締め上げる。マイクの顔が一瞬で真っ赤に染まり、苦しそうに呻き声をあげる。
「いい加減黙らないと、お前ら全員今すぐ換金するぞ」
兄妹の喧騒を遮るように、レイのドスの効いた声が車内に響く。その迫力に、兄妹は一瞬で静かになり、そのまま大人しくシートに座り直した。
静まり返る車内。そんな気まずい空気の中、コウは小さく咳払いすると、レイに顔を向ける。
「そのお前らってもしかして俺も入ってる?」
「…………」
場の雰囲気を少しでも柔らかくするつもりで言った言葉だったが、レイからは何の返事も無かった。




