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「以前、お前と取引をしたハンターだよ」
『……手前、この番号をどこで知りやがった』
レイの言葉に、サンドロは明らかに怒りをにじませた声で応答する。
『今は手前と遊んでる暇はねえんだ。二度とかけてくるんじゃねえ』
「あぁ、銀行が襲われたみたいだな。それに部下も一人殺されている」
『……なんだと?』
「忙しいようだから単刀直入に言う。サンドロ。お前に良い情報がある。銀行から奪われた金塊。そして奪った犯人。そのどちらもこちらが押さえている」
『…………』
サンドロはしばし無言になる。やがて絞り出すようにして言った。
『随分と行動が早いじゃねえか。手前、今度は何を企んでやがる』
「以前と同じさ。あんたにこの情報を買い取ってもらいたい」
『舐めてんじゃねえぞガキが。今から手前を事務所ごと消してやってもいいんだぞ』
「まぁ、まず俺の話を聞け」
レイは兄妹から知った情報をサンドロに伝えた。兄妹が受けた依頼、ケースの番号、そして店長の殺人に関する疑惑。
『……待て』
レイの言葉を黙って聞いていたサンドロは驚いた様子で言葉を発する。
『そこまで詳細に金塊の情報が漏れていただと?』
「そういうことだ。心当たりは?」
『ありえん。そもそもあの銀行に金塊があるのを知っているのは店長を含めて数人だけだ。あいつらが裏切る訳が――いや、一人いるな。あの野郎ならこういう行動を起こすかもしれん』
サンドロの言葉に、レイはふんと鼻を鳴らす。
「良い情報だっただろ、サンドロ? これは貸しだぞ」
『…………』
サンドロは不満そうに唸る。
『それで手前らの要求は何だ?』
「強盗の身柄をこちらで引き受けたい。もちろん金塊はそちらに返還しよう」
『……それだけか? 随分と殊勝なことだ。その強盗に何かあるのか?』
「何かしらの取引があったとだけ言っておく」
『……分かった、いいだろう。今回は手前の話に乗ってやる』
サンドロは一呼吸おいて言葉を続ける。
『まず手前の要求を呑むためには一つやってもらうことがある。この強盗を依頼した奴を生け捕りにして連れてこい。組織としてもケジメを付けさせる生贄は必要だからな。生け捕りはハンターの得意分野だろ』
「分かった。そいつをどこに連れていけばいい?」
サンドロは場所の名前を告げる。それはオフィス街にある地下駐車場だった。
『夕方の六時だ。それまでに連れてこなければ手前らをスケープゴートにしてやるからな』
「了解だ。肝に銘じておくよ」
レイはそう言って通話を切った。そしてコウに向き直り、小さく頷いた。