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Lawless Hunter ~強盗へ行こう~  作者: 佐久謙一
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 車を二十分ほど走らせ、目的の駐車場が見えてきた。フラット式のシンプルな自走式駐車場だった。車を中に入れ、レイの姿を探しながら駐車場を昇っていく。やがて屋上まで昇りきったところで正面にレイの姿を見つけた。

「あいつがそうか? なんだか陰気臭い野郎だ」

 マイクが振り返りながら尋ねてくる。シェリーも興味津々と言った様子でレイの方を見つめている。

「あれってリョウのパパ?」

「どっからそんな考えが出るんだよ。あれと親子だったら自殺してるわ」

 レイの傍に駐車し、三人は車を降りた。レイは彼らの姿を認識するなり、無言のままコウに目配せする。その手に結束バンドが握られてるのを確認し、コウは小さく頷いた。

「よう、お前さんが車を用意してくれたんだってな? いやぁ、助かったぜ」

 マイクが無警戒にレイに近付いていく。そして挨拶のつもりで右手を上げ、レイの肩にポンと手をやる。

 その瞬間、即座にレイの両手が伸び、マイクの襟首と右手首が掴みあげられた。

 突然のことにマイクの顔が強張る。だがその時既に、マイクの体は宙を舞い、視界が逆転していた。そのまま重力に引っ張られるように地面に叩きつけられる。

 マイクの口からくぐもった悲鳴が漏れる。そこでようやく自分が投げ倒されたのを認識した。そのまま抵抗する暇も無く、うつ伏せに転がされ腕を後ろに持っていかれる。そして気付いた時には手首に結束バンドが巻き付き、完全に拘束されていた。

「お、おい、なんだよ、これっ!」

 咳き込みながらマイクが唸る。必死に首を持ち上げ振り返ると、コウに組み伏せられているシェリーの姿が視界に映った。

「痛い、何すんのっ! 助けて兄貴!」

「おい、リョウ! 手前どういうつもりだ!」

 マイクが叫ぶ。結束バンドで拘束されたシェリーを尻目に、コウは肩をすくめながらマイクに顔を向ける。

「悪いね二人共。実は俺、現役ハンターなんだ」

「なっ、手前、最初から裏切るつもりだったのか!」

「ひどい! カス野郎! ユダ野郎! 銀貨ケツに突っ込んで死ね!」

「仕方がないだろ。こっちもこういう仕事なんだ」

 コウは諭すように言った。そしてふと顔を上げると、レイが明らかに怒りのこもった目でこちらを睨んでいることに気付いた。

「何で未だに結束バンド持ってこっち睨んでんだよ」

「強盗犯は三人組だからな」

 レイの言葉に、コウは唸りながらこれまでの経緯を説明する。コウの説明を聞いたレイは大きくため息を吐くと、結束バンドをポケットにしまった。

「まぁ、お前の身元はバレてないようだし、特別に見逃してやるか」

「あれだよあれ。潜入捜査って奴。敵を騙すにはまず味方から」

「しかし、こいつらとんでもないことをしでかしたもんだな」

 レイはそう言いながら、マイクの車から金塊の入ったケースを手に取った。そして重さを確かめるように上下に動かしつつ言葉を続ける。

「洗浄用の金か。こいつは警察ではなく持ち主に返した方が良さそうだな」

「おっさん、それ少しネコババ出来ねえかな? ちょっとくらい減っててもおいしくなってリニューアルって言っとけばバレないだろ」

 コウの提案にレイは首を横に振った。

「やめておけ。自分の資産はミリグラム単位で把握している男だ」

「ん? おっさんその金塊の持ち主知ってんの?」

 コウの言葉に、レイは眉をひそめる。

「逆に聞くが、知らなかったのか? あの銀行が誰の銀行なのかも」

「え、誰の?」

「サンドロ・アルレンツォ」

 聞き覚えのある名前に、コウは一瞬ぽかんとする。場に一瞬沈黙が訪れるが、最初にその沈黙を破ったのは足元に転がるマイクだった。

「おい、今サンドロって言ったか? スペリアスの金庫番のサンドロ・アルレンツォ!?」

 マイクの顔は真っ青だった。それに対してシェリーはきょとんとした顔でマイクを見つめている。

「え、誰なの? そのサンドロって」

「馬鹿! お前何で知らねえんだよ! スペリアスって言えば、日本四大マフィアの一つだぞ! おまけにそこのサンドロって言えばバリバリの武闘派で知られる奴じゃねえか! 市民が行き交う街中でも平気で機関銃ぶっ放すイカレた野郎だぞ!!」

 マイクの言葉を聞いて、ようやく事態を飲み込めたのかシェリーの顔も真っ青になる。そんな彼らに呆れたようにレイはため息を吐いた。

「自分達の仕事が誰を相手にしているかも分かっていなかったのか」

「まぁ、仲介屋を経由した匿名の依頼だったみたいだし、その辺は仕方ないんじゃないかな?」

 コウの言葉に、レイは再び大きくため息を吐いた。

「大方、組織間抗争の鉄砲玉として使われた、といったところか。まぁ、便利屋というのはこうやって良いように利用される仕事だ。こんな仕事を選んだ自分を恨むんだな」

「……ちくしょう、ふざけんなよ」

 マイクがわなわなと震えている。シェリーは縋るような目でレイを見上げ口を開く。

「ア、アタシ達はどうなるの? 殺されるの?」

「おそらくはな」

 レイは淡々と告げた。その無慈悲な死刑宣告にシェリーはボロボロと泣き出した。

「うええぇぇぇん、嫌だよぉ死にたくないよおおおぉぉぉ。私まだ十六なのにいいいぃぃぃ。まだ彼氏も作ったことないのにいいいいぃぃぃ」

「……チクショウ、こんな終わり方ってあるかよ! あの仲介屋ふざけた仕事持ってきやがって!」

「そうだよ! マイクのせいだよ! アンタがもっとマシな仕事見つけてくれば、こんな目に合わずに済んだんだよ、この馬鹿兄貴っ!」

「誰が馬鹿だ、この野郎! 俺がいないと何も出来ないくせに! 俺が仲介屋を何件も回って、必死に仕事探してた時、お前は部屋でゴロゴロしてテレビ見てただけじゃねえか!」

 互いに罵詈雑言をぶつけ合いながら喧嘩する兄妹。そんな彼らを尻目に、コウは複雑な表情を浮かべ、レイに顔を向ける。

「なぁ、おっさん。一つ提案なんだけどさ」

「なんだ?」

「こいつらの命だけは何とかなんねえかな?」

 コウの言葉に、レイは怪訝な表情を浮かべる。そしてしばらくして小さくため息を吐いた。

「またいつものおせっかいか?」

「裏切る予定だったとはいえ、少しの間一緒に仕事した仲だからさ。こいつらは悪党だけど死ぬほどの連中じゃねえよ」

「変な情は身を滅ぼすぞ」

「滅びかけた時に考えるよ」

 コウのへらず口に、レイは再びため息を吐く。そして兄妹に一瞬視線を向けた後、小さく首を横に振る。

「こいつらに関しては厳しいな。しでかした事が大きすぎる」

「ん? 銀行から金塊盗んだだけだろ?」

「それだけじゃない」

 レイは淡々と言葉を続ける。


「サンドロの部下を一人殺してる」

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