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1.引き継ぎ事項手引書(3)

 何がどうなったらあの小さな身体であんな事ができるのか?ポップコーンが弾け飛ぶように次々に人を薙ぎ払い続ける狂人から目が離せない。


 延々と駆けつける騎士の数は優に100人は超えただろう。セイナ・グローズの前では数は意味をなさない。依然として巨刀を振り回し、片手で武装された騎士達を投げ飛ばしている。


「ハッハッハー!皆様、鍛錬が足りていないようですな!お早めに女神様直属の天使様をお出しになる事をおすすめいたしますが、いかがかな???」


「あの小娘……、すぐにミカ様を呼んで来い!!!」


 素敵じいちゃんは騎士に指示を出す。しかしその間にもセイナ・グローズの猛攻の被害は広まる一方だった。


「来られよ!もっと来られよ!!このセイナ・グローズを止めてみなされ!!!ハッハッハーーーッ!!!」


「……適当に付けたけど、あのミニマムガール本物の狂人だったのかよ」


 辺り一面血の池、地獄と化していた、離れた俺の近くにまで狂人に刻まれた四肢に臓物、が飛び散っている。どうも状況的には助けられているのであろうとは頭では理解しつつも、目の前でその所業を目の当たりにすると身体が怯えを止められない。


 見た目で人を判断してはいけない!なんて昔から言われていたが、それを踏まえた上でも言わずにはいられない。良くて高校生、普通に見れば中学生に見えてもおかしくない、そんな少女の容貌で屈強な大人達を嬉々として次々に切り伏せる。とても異常な光景だ。


 僕が今まで暮らした世界には片手で大人を放り回せるミニマムサイズなど居なかったのはもちろんのこと、辺り一面に斬殺、または撲殺した相手の血肉を撒き散らす行為をまのあたりにする事もなかった。


 なのに俺はこの惨状を平気で目にしている、それに違和感も感じつつセイナ・グローズの合図をただただ待っていた。と言うよりも待つ事だけが現状俺が出来る唯一の事だった。


 次々に襲いかかる相手だったが、騎士たちの恐れのせいなのか急に間合いを取り始め、黒ローブ達が長らく唱え続けた呪文を止めると一斉にセイナ・グローズに手をかざして叫んだ。


「裁きの炎にて滅されよ!!『業火の柱』!!!!」

 セイナ・グローズを中心に炎の柱が建物の天井をも突き破り燃え上がった。


「ハハハハッ!私を焼き尽くせるとお思いか??鍛え抜かれた我が肉体はたかだかボヤ程度の火ではビクともしませんぞ!!!」


 セイナ・グローズが炎の柱から歩いて出てきた。相変わらず顔には笑みが浮かび上がっている。


 そんなセイナ・グローズ目掛けて軍勢の後方から舞い上がり、そして斬りかかる影が一つ現れた、それまで全ての攻撃を気にも止めていなかった彼女が初めて巨刀を使い攻撃を防いだ。


「やっとお出ましでございますか?あまりにも焦らされる故に帰ってしまう所でございましたよ、天使様!!」


「人の子よ、人の身には不釣り合いなその力。さぞ持て余したことだろう。今、存分にその力を振るうがよい」

 狂人に斬りかかった天使と呼ばれる者は端正な顔立ちに長い白髪を靡かせて男女の判別は出来ず、その背中ある大きな光の翼で浮かんでいた。


「それはそれはお心遣い痛み入ります!それでは参りますぞ?ハッハッハー!!!」


 狂人が振り下ろした巨刀は天使に避けられそのまま地面に打ちつけその衝撃まわりへ走った。天使は羽ばたき宙に舞いながら剣を突いたが狂人はそれを空いた左手で掴み取った。


「まさか我の剣を手で受け止めるとは想像以上ですよ」


「まだまだ始まったばかりでございますよ?天使様!!」


 掴んだ剣ごと天使を床に何度も打ち付け神殿内には鈍い音が響いた。そして上、目掛けて投げた天使が天井に減り込んだ。狂人は辺りに転がる騎士たちの槍を拾い上げ天使に向かい数十本投げつけた。


 ドンッ!ドガガガガッ―――!!!!!


 次々に突き刺さる槍から天使の真紅の血が滴り落ち、地面には血溜まりが出来ていた。側から見れば明らかなオーバーキルである事は容易にわかる。


 しかし、狂人セイナ・グローズは一向に手を休めることなく槍や剣を投げ続けている。天使の身体は無数に刺さったそれらで埋め尽くされていた。


「ハッハッハー!天使様!!そろそろ本気を出されてはいかがですか???」

 とても生きてるとは思えない、血みどろの天使を見上げて狂人は言葉を投げかけるが、巨刀を持つその手は変わらず強く握り締められていた。


 静まり返った神殿内に、ぱちぱちぱちと巨大扉の方角から拍手が響いてきた。まだ100は居る騎士や黒ローブの集団が一斉に道を開いた。


「いや〜、まさかミカ様とここまでやり合える人間が存在するとは。尊敬を通り越して感動さえ覚える。…ですがミカ様、お遊びも程々にお願い致します。信徒が心配いたしますので」


 ヒョロ長い身体に線のように細い目に丸眼鏡となんとも胡散臭そうスーツ姿の男がゆったりと歩いて来た。


 スーツの男は手に持った木で出来た剣を天使目掛けて放り投る。絶命したかに見えていた天使がそれを掴むと、木で出来た剣が赤い鈍い光を発した。


「我に神具を握らせるとは永くなかった事です。誇りなさい、人の子よ」


 天使は無数に身体を貫いた槍や剣を手に持つ朱色の剣で払い落とすと光の翼を羽ばたかせ地面に降り立った。


「ハッハッハー!!ようやく闘いが始まるといったところでしょうか?天使様!」


「いえ、今から起こるのは唯の断罪です」


 キィーーーン!!!


 気づいた時には天使が剣を振るった後だった。俺は瞬き1つせずに事の行末を見守っていた、だが俺の目には何も見えなかった。それでも剣を振ったとわかったのは剣同士が衝突した甲高い音が耳に届いたからだ。


 しかし狂人セイナ・グローズには見えていたのだろう。携えた巨刀を身体の前に構えているのがその証拠だ。


 また巨刀で身体がすっぽりと隠れているので巨刀の大きさと狂人のミニマムさがより際立って感じられる。


「ハッハッ!流石は天使様です!!もう少しで身体が真っ二つになるところでした!」


「人の子、…いえ、セイナ・グローズ。素晴らしい反応です。そして貴方が持つに相応しい素晴らしい刀です、よくぞ我が神具の一太刀止めて魅せました。…ですが完全ではないようですね」


 椅子の影に隠れる、俺の目の前に何かが降ってきた。……人の腕だ、先程まで狂人が刻んだ大柄な手ではなく、細く華奢な腕だ。


 そう、狂人セイナ・グローズの左腕、巨刀を持ち上げ現れた彼女の身体から左腕の、肩口の近くから先が無くなり血が噴き出していた。


「ハッハッハー!闘える限り何ら問題ありませんぞ?天使様!次はこちらから行かせて頂きます!!!」


 天使目掛けて猪突猛進する狂人セイナ・グローズ、だがそのスピードが尋常ではない。そのスピードを生み出すパワーにより彼女が進んだ道の地面は砕け散り宙に撒きあげられている。


 突き出した巨刀は標的の天使を捉え、異常なスピードがより一層の威力を生み出していた。だが天使は朱色の剣を突き出し突進してきた狂人の巨刀の切先に切先を合わせて止めた。


「やはり素晴らしい刀ですね、そしてセイナ・グローズ、あなたも」


「ハッハッハー!お褒め頂きありがとうございます!!」


 そう言うと狂人は合わせた切先を外し自分の腹部に天使の剣を受け止めた。そしてそのまま切り込んみ天使の頭部を巨刀で切り裂いた。


「ハッハッハー!今です勇者様!!!!」


 嬉々とした表情で口から血を噴き出して叫ぶ狂人に目を奪われた。俺が残ってやれる事なんてものは何もない。むしろ邪魔にしかならない。だけど、俺だけが助かる訳にもいかないと思えて青い玉が手から離れない。


「素晴らしい、実に素晴らしい。」


 裂かれた天使の頭部が言葉を発したと思った次の瞬間、天使が狂人の左目を天使の身体に残っていた槍の破片で突き刺しその後蹴り飛ばすとセイナ・グローズは壁に打ちつけられた。


 反応が無い狂人だが、巨刀は手に握ったままだった。天使の切り裂かれた頭部は徐々に元に戻っている。


 俺は震える足を押さえて狂人の元へと走った。


「おい、お前。…い、生きてるか?」


「…………お、お前では…あ、ありません。セイナ…グローズで、す」


 虫の息だ。さっきまでの力強い姿から想像はできないほど変わり果てた姿になっている。


「勇者様…な、なぜ……お逃げに………」


「とりあえず少し黙ってろ」


 思考を高速回転させるが何一つ良い考えが浮かばない。そうこうしている内に、天使の身体は元に戻ってしまっていた。


「実に有意義な時間でした。それではさようならセイナ・グローズ、と輪廻の者よ」


 天使の背に輝く光の翼から無数の光の矢が俺たちに襲いかかってきた。仕方がない、狂人とはいえ女の子をほっとけないと思い彼女の前に立ちはだかった。


 流石に怖くて強く目を閉じていたが一向に死なない。なぜだ?もうササッと終わらせてくれ。


「いらっしゃいませ」


 目を開けると眼前に派手な赤色のスーツを見に纏い、濃い青の髪を上でまとめた目鼻立ちがしっかりした女性が立っていた。



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