1.引き継ぎ事項手引書(2)
素敵じい様が促すとその場に居た全員が平伏した。じい様は俺の前で天を見上げて何やらボソボソ呟いている。
「おーい、おじいちゃん大丈夫?朝ごはんはもう食べたでしょ?お空に向かってお喋りしても何もだれもいな―――」
ゴーン、ゴーン、――――ゴーン、ゴーーーン!!!!
宙から、けたたましい鐘の音が響き渡り、頭が割れそうだ。
「女神《ロジナ様》ごこーうーーりーーーんっ」
じい様の付き人の騎士たちが一斉に声を揃えてた。
宙が金色に輝きとてもじゃないが俺はその光源を見ることができない。しかし素敵じい様はそれを直視している様にみえる。人によって…は見えるのか?
尚も鐘の音は鳴り続けている。このままでは本当に頭が割れる。
ドォンッ!!!!
(なんだ⁇何の衝撃音だ?なんだ?この俺の胸から生えてるこの金色の棒は⁇今までこんなの無かったぞ?……音は鳴りやんだのか?)
「なにが……どうなって?―――⁉︎ごふっ⁈ご…ごでは⁉︎???!!ごの…ぁが…いのは―――???」
(……胸が熱い 何で息が出来ないんだ? 何で宙に女が浮いてるんだ…? 何で俺を嘲笑っておるんだ……何で…あいつは………………………………―――――――――― )
「面を上げよ皆のものー、偽りの勇の者は女神《ロジナ様》の神断の矢により滅した‼︎天へと還られた偉大なる女神《ロジナ様》へ感謝と讃仰の、祈りを捧げよ!」
老人の声は神殿の隅々に届くほどに大きく、取り囲む信者と思しき数千人が一斉に祈りを捧げた。
石の椅子に縛りつけられ胸に風穴が空いた死体からでた血は老人の足元にまで流れていた。
「臭くてかなわんわ、穢らわしいヤヌイの血でワシらの神殿を汚しおって、全くもってけしからん‼︎おい!早く器を持ってまいれ!!」
巨大扉が開くと中から黒いローブに包まれた集団が現れ丁度2メートルはあろう巨大な水晶を持ち込み、老人の元へ集う。
死体が座る椅子の前に水晶を置き、黒いローブを靡かせた集団はその周りを囲う。老人はその輪の中に入るとひざまつき天を仰ぎ呪文を唱え出す。
呪文を唱え始めた途端に神殿全体が地鳴り音と共に激しく揺れだした。周りの傍観者達は慌てふためき騒然としているが、その中心地に集う者達は静かに老人を見守る。
「………何故じゃー⁉︎何故移らん!黒祈衆!!これは間違いなく彼の方から授けられた物で間違いないのであろえな?!!!」
黒ローブを纏う集団は互いの顔を見合わせる。
「間違いはない………はずです…」
「はずとはなんじゃ!?では何故移せぬ??!彼の方から授かりし宝珠ぞ!女神《ロジナ様》に御顕現頂きお手を煩わせたのだぞ??!これがどう言う事か分からぬお前達ではあるまい!?!」
「宝珠なるこれはの管理は我がが一瞬たりとも目を離さず行っておりました。故に入れ替えられたなどありえませぬ!」
「ではなぜじゃ?何故移らぬ?この様な結果彼の方は愚か女神《ロジナ様》にご報告なんぞできんぞ?!!」
困惑する老人と黒祈衆、老人は周りにいる人たちをステッキで殴りつけどうするのか⁈と繰り返し問う。しかし誰も答えることができずそれがさらに老人の怒りに油を注いだ。
「このクソの塊からあのモノが取り出せないとどうなる?どうなる??どうなると思う!!!このクソ、クソ、くそ、から―――!!!」
興奮した老人は血みどろの死体をステッキで力いっぱい殴りつける。
「痛っ?!!」
老人、黒祈衆、その他全員が死体に注視した。
(何を喚き散らしてるんだこの素敵じいちゃんは?今までの人生、自分の思い通りに過ごしすぎて取り敢えず駄々を捏ねればなんでもまかり通ってきたんだろうな、それが滲む溢れてやがる
それにしても、しかし、俺の体から溢れ出した男気、もとい大量の血はどうなってやがる?昔、小学生の時にこぼしたバケツの水よりも散らばってるぞ⁈でも俺は生きている?)
気づかれない様に目を動かし辺りの様子を見渡すが、目的の人物が目に入らない。
素敵じいちゃんの興奮が一段と上がってきてやがる。あっやばい!
「痛っ?!!」
殴られて声が出ない人間がいるか?答えは簡単、いない、だ。たまらず、わかってるよ!と言ってしまいそうな程この場の全員の視線が刺さるのが分かる。
俺の目の前に何故か黒ローブやその他皆様、全員が集まり始めた。素敵じいちゃんが先頭にたち何やら唱えている、それを追うように黒ローブたちも呪文らしきものを唱えて何やら巨大な光の塊がどんどんと大きくなっている?
「この穢れし者がー!!我らに与えられし恩寵を受け、この世から散り逝けー!貫け!ガデスアンガーッ‼︎」
打ち上げられた光の玉が宙で分裂し俺の正面から迫り来る。
ズドーンッ!!!ドッドッドン―――
俺は死を覚悟した。齢18で何者でも青年は違う世界に行ってただ死んだ。今流行りの意味のわからない作品名を地で行った、ただそれだけは褒めてくれ。
おかしい、音が鳴り止んだがどうもまだ生きている⁉︎体の見える範囲を確認するが新しい穴は空いてない、それどころか胸に空いた穴が塞がっている⁈
それに何だこの目の前の壁は?……いや、俺はこの地面に突き刺さっている壁を知っている、あの背中に背負っていたのはベンチではなく、やっぱり刀だったのか。そもそもこれを刀と呼んでいいのか甚だ疑問だが!!!あの狂人、なんてもん持ち歩いてるんだ⁉︎
「ハッハッハー!またまたまたお助け致してしまいましたぞ?勇者様!しかし、労いは不用でごさいます!なぜならば私は由緒正しきグローズ家の者、勇者様の案内役!我が名は――セイナ・グローズ!!!」
「お、お前、一体どういうつもりだ?!」
「これはこれはミラズ光皇様ではないですか!どういうとは?我が一族は勇者様の案内役でございますよ?ただご案内が終わるまでに危険が迫る事もある為、ご案内が終わるまでの警護も担っております。ロジナ教のトップであられる光皇様が知らないはずはないと思いますが?」
「案内ならここに連れて来た時点で、終わっているであろうが‼︎自分が何をしてるかわかっておるのか?」
「なにをおっしゃるかと思えば、我が一族の案内をただの道案内と思い込んでおられるようですが?我が一族がご案内するは勇者様が決めた進むべき道の入り口までのご案内、そしてここは勇者様が決めた場所ではございません!故に私には勇者様をお守りする義務がありますので悪しからず!!」
「彷徨う一族の残党めが!もはやお前たちに道の入り口などない、あるのは終焉のみ、潔く2人揃って女神《ロジナ様》が定めた天命に従いい滅するのじゃ!! 黒祈衆!白皇騎士団!こやつらをまとめて消せっ!!!!!!」
「ハッハッハー!素直なお方でございますな!しかーし、この命に変えても勇者様はお守りさせていただく!」
狂人、もといセイナ・グローズが俺を縛り付けている紐を掴むと引きちぎった。出来たとしても刃物で切るだろうがゴリラか?などと思っていたらセイナ・グローズが急に俺の手を握り締めたので体がビクついた。
「勇者様!私が『今だ』と申しましたら、それを地面に叩きつけてお割りください。そうすればこの場から逃げられますので、その後は待機する者に申し付けてあります故ご安心ください!」
手には青い玉が渡されていた。素敵じいちゃん改め、ミラズ光皇が差し向けた手下が一斉に襲いかかってきた。その数はおおよそ50だが巨大扉が次から次へと騎士達が雪崩れ込んでいる。
「ハッハッハー!さてさて、そろそろ始めますか!」
地面に突き刺さっている巨刀の柄を片手で引き抜き、前方から襲いかかってきた5人ほどの敵を片手で巨刀を振い薙ぎ払った。
斬られた敵の体は全て2つにわかれ、その血飛沫と体は敵の集団内に飛散し、敵の動揺を招いた。
「フムッ、今日も変わらずいい切れ味だ!さぁさぁさぁさぁどんどん行こうぞ!!!」
セイナ・グローズは嬉々として敵の集団へと突っ走っていった。その様を見て『狂人』と名付けた俺のネーミングセンスは的を得ていたと自画自賛したのだった。