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1.引き継ぎ事項手引書(1)

【転移しますか?】


(いや、しない)


【転移しますか?】


(いや、いい)


【転移しますか?】


(いや、もう十分だ)


【転移しますか?】


(いや、したくない)


【転移しますか?】


(いや、いやだ)


【転移しますか?】


(いや、やめてくれ)


【転移しますか?】


(いや、いやだ、やめてくれ)


【転移準備完了、転移開始】


 ―――ここは渦の中心、輪廻渦巻くこの世の理の外れの地、望む、望まぬ、求める、求めぬ、受け入れる、受け入れぬ、現世の理ここに通じず黄泉の理そこに通じず、願い叶わず思い届かず、あるはただただ虚無の彼方なり――


 空が赤い、木々の奥に広がる天を見て思わず出た一言だ。


 大の字に転がるなんて平成初期の三文小説に用いられるような文言だと思っていた。


 俺自身がその態勢を取るだなんて思いもしなかった。だけど悪くないなぁ、俺を包み込んでくれているこの赤いゼリーっぽいものはなんだ?心地良く包まれてこのまま永眠してしまいそうだ。


「勇者様ー!」


 えっ、何⁈心地良く包まれていたのに衝撃と共に宙に弾き飛ばされた。宙をクルクル回って飛んでいくー、どこまでもー。


(あーこの高さから落ちたら()()()間違いなし、さようなら、我が人生に悔いはなし…………って俺は誰だ⁇ここは何処だ⁈今の衝撃はなんなんだー‼︎)


「ボベシッッ―」地面に打ち付けられる寸前、横から走り込んできた何者かのタックルで飛ばされた、ダメージが拡散されたと思い込む事で何とか悶絶しながらも生きている。


「ご無事ですか⁈勇者様‼︎」


 甲冑姿の誰かが慌てて俺の方に駆け寄ってくる。小柄な身体にピッタリの甲冑、あんなミニマムサイズどこで売ってるのだ。そもそも甲冑ってのは何処で売っているんだ?


そしてあの背中に担いでいる、自分よりも大きなベンチ椅子サイズの物体はなんだ⁇柄らしき物が見えるがまさか刀か⁈


「ダダダダ、大丈夫ですか⁉︎起きてください起きてください起きてください―――!!!」


 なんだ、なんなんだこのクレイジーミニマムガールは⁈身長180、体重70キロの俺を軽々しく持ち上げ激しく揺さぶり続けるこの狂人は⁈


「待て!待て待て待て待って⁉︎脳が揺れるからいい加減その手をとめて――ー‼︎」


「あぁ!よかった、生きておられたんですね」


「今あんたに殺されかけたけどな」


「何をおっしゃいますか⁉︎レッドスライムに消化されかけていたのを救い出し、さらには地面に打ちつけられそうになっていた所までお助けしたんですよ?」


「お助けしたって?…………ッ‼︎あれもこれもお前かーっ‼︎」


「いえいえ、お褒めの言葉など結構ですよ。勇者様のご案内は由緒正しき我がグローズ家が先祖代々受け継ぐ重要な役割。これしきの事で労いなど不要でございます!ハッハッハ―」


「褒めてねーよ!どう考えたらそう思える?そう思えた?お前にぶっ飛ばされたせいで俺は自分の名前さえ覚えてねーんだぞ!」


「噂に聞いた通り、勇者なる方は皆様揃ってご冗談がお好きなのですね。それに私は、お前ではありません、我が名はセイナ!セイナ・グローズです‼︎」


 即座にわかってしまった。この子は人のお話を聞けない子だと。それにしても勿体無い、小柄で目力がある整ったご尊顔、それに加えて必要な所にはしっかりと肉付きもある、男共は放っておかないだろう。


 しかし、この自由奔放な立ち振る舞いに加えて、あの異常なパワーを目の当たりしてはとてもじゃないが誰も近づこうとさえしないだろう。


「勇者様!何をぼーっとしているのですか?早く出発しますよ」


「誰が勇者だ!さっきからなに訳のわからんことを言ってるんだよお前は⁈」


 メキャッ‼︎ボゴッ⁉︎グチャ!ドーーーンッ!


「全く、お前ではないと言っているではないですか!プンスカッ」


(こ、この、くそアマ…。どうやれば人間を地面にめり込ませられるってんだ。)


「世話が焼ける勇者様ですね〜、もう面倒なので私が持っていきます」


(なんだ?持っていく?)


 ズッポン‼︎


「では出発しますよ、勇者様!」


(マジかこいつ…、俺の事、片手で抱えてるぞ⁈何者なんだこいつは?だ…ダメだ、ボコスカ殴られたダメージが今頃……目の前が暗くな……る…………)



「………され」


「……きなされ」


 ゴンッ⁉︎


「起きなされ!!!」


 とりあえず頭が激しく痛い。目を開けると目の前には、棺桶に両膝まで突っ込んでいそうなじい様が素敵なステッキを振り下ろしていた。


 じい様の後ろには俺を気絶させたセイナ・グローズなる狂人が誇らしげに俺を眺めている。俺は状況確認に注力した。


 右よし、左よし、前後よし、上下よし、結果は、巨大な神殿みたいな所で、なんか石の椅子っぽい物に拘束されてます。その周りを何か大勢が囲んでいます、以上。


 起きたのを確認した素敵なじい様が、俺の身体を品定めでもするかの様に見て回る。見終わるとお供らしき奴らを引き連れて巨大な扉から出て行った。


「一体何がどうなってんだ?」


 吐き捨てるように口から出た言葉に、狂人セイナ・グローズが気付き自信溢れる面持ちでこちらに来た。


「ハハハッ、ようやくお目覚めですか?」


「お目覚めも何もおま……セ、セイナが気絶させたんだろうが!」


「おぉ‼︎名前で呼んで頂けるとは光栄の極みでございます勇者様」


(お前が呼ばせているんだろうが!!!)

「てか、さっきからずっと言ってるその勇者様ってのはなんなんだよ?」


「はて?あなた様の事に決まっているではありませんか?」


「……俺は今自分が誰なのかさえ覚えてねぇんだよ………」


「なッ⁈⁈⁈⁈――――そっ、それは、本当でごさいますか?」


「一体、何のために嘘をつくんだ?気がついたらセイナ、アンタにぶっ飛ばされて宙に浮いてたんだよ!何がどうなってるか説明ぐらいしてくれ‼︎」


 セイナは俺の話を聞くなり、見る見る表情が曇りその場で何やら考え込んでいる。そうこうしていると、巨大扉がまた開き、そこから先程姿を消した素敵じい様が純白の西洋の鎧が格好良い騎士達と現れた。


 それを見たセイナ・グローズはさらに怪訝な顔へと変わっていった。そして俺の耳元で囁き、ポケットに何かを突っ込むと、先程まで居た場所へ戻って行った。


「いやはや、先程は失礼を致しました勇者様。ご気分はいかがでしょうか?」


騎士を引き連れた素敵じい様は、さっきまでとは違いにこやかな表情で更に低姿勢で俺に頭を下げている。


「ご気分?そりゃあ最低だよじい様。気がつけば何が何やらわからねぇ事になってるは、知らないじい様に頭殴られるわ。これで気分が良いやつがいたら是非教えてほしいね」


「それはそれは申し訳ございませんでした。なにぶん一筋縄ではいかない事態でしたものですから、ご容赦下さい」


「ご容赦してやるから、まずは何がどうなってるか説明しやがれ!!」


「……ふーむ、どうやら勇者様は急に()()()に来られて少々混乱されてらっしゃるようですな。相分かりました、お気持ちを整理できるようご説明いたしましょう」


素敵じい様は俺を殴打したステッキで地面を2度叩くと、目の前に立体映像が浮かび上がった。


「遥か昔、我らの世界には恩寵をもたらしてくださる女神《ロジナ様》がおわせられました。そして勇者様の世界には智を授ける神『ヤヌイ』様が。


ある時、あなた様方の世界に智のお力だけでは解決できない危機が訪れました、『ヤヌイ』様は我らの世界の女神《ロジナ様》に助けを求め、解決策をお考えになりました。


そして御二方が導き出した結果、こちらの世界で最も優秀な恩寵を授かりし勇をそちらの世界へと送り問題を解決させる事にしたのです。


そしてその者は無事に事態を解決したのですが、その者は呪いに犯されこちらの世界とそちらの世界を繋ぐ扉を通り抜けることが出来なくなってしまったのです。


流石にこちらの世界でも随一の者を失っては今度はこちらの世界が困ります。そこでヤヌイ様がお考えになられたのが恩寵を移して其の者をこちらの世界へと送り返し、恩寵を返すというものだったのです。


そうして、恩寵を移した者をこちらの世界に送ったまではよかったのですが、ここで天に座す御二方様にさえ予想だにしなかった事態が起きたのです。


恩寵を移した者が時を経て、命途絶えた時にそれは起きました。理が異なる2つの世界の恩寵と魂が同時に滞在したことで、死後、器を失った恩寵と魂は一つとなり、どちらの世界の理とも相入れないモノが生まれてしまったのです。


その時、明確に何が起きたかを伝える文献などは全て失われていますが、いくつかの対策を取られたのちにあなた様方の世界から新たな器となるお方をお迎えし、それをお身体に注ぎ込むことで事態が収束したと伝えられております。


そして長年に渡り女神《ロジナ様》のお力添えにより、新しい勇のそれを宿す者であられる、勇者様にこちらの世界にお送りいただいているのです。


それがあなた様でございます。勇者様」


「……全く理解できないが、結局の所は俺に得体の知れないモノをぶっ込むと、で、…俺はその後どうなるんだ?」


「ホホホホッ、どうも、いたしませんよ。これまでこのお役目を引き継いで頂いた勇者様方は、その後は天命を終えるその時まで健やかにお過ごしになられましたよ」


「そうかい、それならまず椅子に固定しているこの紐を解いて貰えると助かるんだがな」


「いやいや、それはこれから行われる儀式の途中で動かれては危ないので念のために縛らせていただいてるだけですよ、終わればすぐにでも外しますので、もうしばらくご辛抱ください」


怪しさ満載だ、あの顔に張り付いた笑顔が特に信用できない。だがこの拘束を一人で解く事もできない。


「ちなみに、その儀式ってのはお断りできたりするのか?」


「面白い事をおっしゃりますな勇者様は、きっとまだ頭が混乱されているのですな。なーに、儀式はすぐに終わりますから、ご心配なさらず」


この世界には人の話しを聞く文化はないのか?どいつもこいつも歪んだ思考すぎるだろ⁈


「勇者様もご納得いただいたようだ、ではこれより女神《ロジナ様》に御顕現していただき、儀式を執り行う、皆のもの平伏し、こうべを垂れろ」

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