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あたたかな瞳

 お母さんは私を生んで、すぐに死んでしまった。


 私を生まなければ死ななかったかも知れないのに、二度とチャンスはないからと、自分も生きるほうに賭けたのだそうだ。


 もの心ついて、どうしてうちにはお母さんがいないのかお父さんに尋ねると、静かにすべての経緯を説明してくれた。


 そして私はお母さんを死なせたんじゃない。お母さんの命を引き継いたんだ……と。


 私はお父さんと、こんなお父さんを選んだお母さんの2人とも大好きだ。


 ただ、残念といえば、お母さんの料理の味を知らないことかな。




 私の15歳の誕生日に、お父さんは絶対にプレゼントじゃない大きくて汚れた箱を持って帰ってきた。


「ただいま。誕生日おめでとう」


「お父さん、なにその箱?」


「ああ。これが今年のおまえへの誕生日プレゼントだ」


「ええ? それがぁ!?」


「まあまあ、それはこれからのお楽しみだよ」


 お父さんはバースデーケーキもそこそこに私をテーブルに座らせて、箱から取り出したものをレンジに入れてチンしてる。


「さあ、できたぞ」

「これぇ!?」


 お皿に乗って出てきたのは、ただの卵焼き?


「♪ハッピバ~スデ~トゥユ~♪」


 ベタな歌を歌いながら、お父さんがテレビにDVDをセットすると、そこには……お母さんが映ってた。


「……何よあなた。もう、撮らないでよ。恥ずかしいでしょ。

 あはは、まだお料理は修業中なのよ」


 笑いながら真新しいキッチンで料理を作っているお母さんと、ビデオを撮ってるお父さんの楽しそうな会話。


 お母さんが作っているのは……卵焼き。



「当時の冷凍技術では味や風味は1年しかもたなかったんだけど、父さんの友人に冷凍保存の研究してるやつがいてな……」


 普通ならあり得ない15年という時間。


 私に味を伝えるために、今日まで大切に保存されていた、お母さんの味がこれなんだ……。


 涙をぬぐって、画面のお母さんに向かって手を合わせる。


「いただき……ます」


 嬉しくて涙が止まらない。こんなの、こんなプレゼントなんて反則だよ。




 だけど、なんで?


 こんな時って美味しくて感動するところなのに。


 ちっとも美味しくない。


 美味しくなさすぎるよ……お母さん。


「お母さんは料理がヘタだったんだよ。

 ほら、画面でも修業中って言ってるだろ」


「う~~~っ」


 だけど、お母さんの味は覚えた。

 ここに私なりのアレンジ加えて新しい味にするよ。


 うちの卵焼きは、今日から2人の合作になるんだからね。




「お父さん! 朝ごはんできたよ!」


 次の日曜日。

 私は張り切って朝ごはんを作った。


 もちろん、お母さんと私の卵焼きもたくさん作ってある。


 テーブルには、いつものコーヒーとバターたっぷりのトーストがいい香りを漂わせている。


「おお、ありがとう」

「どうぞどうぞ!」


「いただきます!」

「いっただきます!」


 お父さんはさっそく卵焼きをひとくち食べて、すぐにコーヒー?


「熱っ、コーヒーが変なところに入ったよ。ゴホッゴホッ」


「もう、お父さんたらあわてないでよ」


 笑いながら私もお箸で卵焼きを……!


 すぐにコーヒーに手を伸ばしたら、少し気管に入ってむせてしまった。


「はははっ、おまえこそあわてないで食えよ」


 ティッシュで口を拭って、トーストをかじり、もうひとくちコーヒーを流しこむ。


「やっぱりおまえは、お母さんの子だな」


 お父さんが優しくつぶやく。


「この感じ、ほんとに懐かしいな」


 お皿にてんこ盛り作ってしまった卵焼きをガッツリほお張るお父さんは、涙目で額にアブラ汗まで浮かべているのに……。


 私に向けるまなざしはスゴく嬉しそうだ。

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