妖精ニート
「金に囲まれて生活したい」
海岸で拾ったツボから出てきた妖精みたいな奴が、お礼に願いを叶えてくれると言うのでオレはそう答えた。
「それならお安い御用でさ」
妖精が何やらモゴモゴ唱えて左の人差し指を立てたとたん、オレのまわりには金属製品が山のように出現する。
「違う! 金と言ってもお金のことだ。貨幣だよ」
すると妖精は「こりゃ失敬」と、またモゴモゴ唱え、今度はスゴイ量のコインを出現させた。
金貨や銀貨ならばと確かめてみると、どれも安っぽい金属で作られた本当にただのコインばかり。
「違うだろ、ちゃんと価値のある金に囲まれたいんだ」
「うむむ。オラっちは長いあいだ閉じ込められていたんで、今の人間の価値がよく分からんのでさ」
「なるほど。それは確かに」オレは妖精の言葉に納得した。
長年、人間の世界から離れてツボの中で暮らしていたのでは、世間の感覚から離れていても仕方ない。
「だったらオレの家にきて、しばらく社会見学するか? パソコン使えば大抵の情報は手に入るぞ」
「な、なんでさ? その“ぱそこん”とやらは?」などと最初のころ言っていたのがウソのように、妖精はすっかりネットにはまってしまった。
金の価値もすぐに覚え、自分名義の口座まで開設してオークションにネトゲなど、オレが仕事に出かける前からパソコンの前を陣取り、帰ってきてもまだ続けている。
「廃人になるのは勝手だが……」見かねたオレは妖精に声をかけた。
「お前はいつオレの願いを叶えてくれるんだ?」
「そんなのいつでもできますでさ。それよりもう少しでボスが倒せるんでさ。
こうなったら少し高くても聖剣ジュムジュマを購入して……」
モゴモゴ唱えて左の人差し指を立てて、妖精自身の口座の残高画面を開くと、めまぐるしく数字が点滅してケタが1つ上がり、すぐさま引き落とし手続きをすると、画面の向こうでは勇者が何やらスゴイ剣を手にしている。
「そんな方法があるなら、オレの口座にも振り込んでくれよ」
「今のはオラっちが投資している株を、瞬間的に売り買いして儲けた金でさ」
「だったらオレの口座にも同じことをしてくれ」
だが妖精はオレに目もくれず、
「まあまあそうおっしゃらずに」などと言いやがった。
こいつ、オレの願いを叶えてしまったら、ツボに戻らなければならないのを嫌がってやがる。
すでに願いなんて叶える気がないことに気づいたオレは、妖精の首根っこをつかんで海から持ってきたツボに無理やり押し込めてやった。
「ヒイイッ! お助け、お助けぇ!」と騒いだが、もう許さない。
フタをしめようとする直前「せ、せめてパソコンだけは、パソコンだけは使わせてくだせえ!」と情けない声が聞こえた。
確かに一度パソコンにハマれば手放せなくなる気持ちは分からなくもない。
少しかわいそうに思ったオレは、次の日、中古のパソコンを買ってきてツボの前に置いた。
「これをやるから魔法で中に取り込め。
買い物をしたいなら、受け取りと、ここへ運んでやる手数料として商品代金に10%プラスしてオレの口座へ振り込めば代行してやる。
それと、毎月の電気代もお前に請求するぞ」
すると中から「お願いします」と声がして、パソコンが消えた。
これで妖精に願いを叶えた自覚がなくても、オレはかなりの金を手にできる。
自由に金が手に入り、画面の前で数字だけを動かすうちに金を金とも思わなくなって、欲しいものを欲しいだけ買ってしまうようになるんだ。
そのうちいきなりブレーカーでも落として驚かせてやろう。




