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シーソー

 ……サチは女の子ながら村の子らの中で一番元気よく、いつも野山を駆け回り、畑の手伝いもしておった。

 じゃがある年の流行病いにかかり、あっけなく死んでしもうた……。


 ワシは、先祖が暮らしていた村に伝わる昔話のサチという少女の話を思い出すたびに心が痛んだ。

 まだ村人たちが貧しかったころ、未来をになうべく子どもたちが、今なら簡単に治る病気のためにあっけなく命を落とすなど、とても悲しいことだ。


 ワシはそんな悲惨な時代をなんとかするために、必死で研究し、ついにタイムマシンを完成させたのだ。

 そうして最新の万能薬を携え、はるか昔、サチという少女が生きていた時代に到着したのだ。


 そこは画像でしか見たことのないわらぶき屋根の建物がポツリポツリとあり、傾いているものは木でつっかえ棒をしてあるという想像以上に貧しい光景だった。

 人が見当たらないため、すでに廃村にでもなったのかと思い、一軒の家の窓から中をのぞくと、病に伏せる幼い子どもを看病している夫婦と老人がいる。

 やはり今ちょうどこの村は病いに冒されているのだ。

 その家の戸をたたくと、疲れきった表情の老人が出てきた。


「どちらさんかの?」

「いきなりすみません。この村でひどい病いがはやっていると聞きつけて、なんにでも効く良い薬を持ってきたのです」

 ワシの言葉に老人はハッと表情を明るめたが、すぐに暗い顔に戻る。

「悪いが帰っとくれ。薬があっても買える金がないんじゃ」

 そうだ。そのために子どもたちは死んでしまうのだ。

「お金などいりません。あなただけでなく村の人たちみんなの分をすべて無料で差し上げます」

 バッグの中から錠剤の入ったビンを取り出し、老人の手に握らせる。

「これを一つぶ飲むだけで病いが治ります。

 実際にやって見せましょう」

 ワシの申し出が信じられない様子だったので、家に上がりこんで子どもに一錠飲ませると、5分もしないうちに顔色が良くなり、10分後には体を起き上がらせるまで回復した。

「まだ治り始めたばかりでムリはさせられませんが、これで亡くなることはありません。

 これと同じものを12個持ってきました。すべて差し上げます」

 1ダース入りの箱を差し出すと、両親と老人がハラハラと涙を流し、何度も何度も頭を下げる。

 感謝されるつもりではなかったので、面映い気持ちになりながら早々にタイムマシンに逃げこみ、ワシが暮らしていた時代に帰ってからさっそく昔話を確認した。


 そこには……サチがある年の流行病いにかかったとき、突然、家にやってきた天狗の遣いからもらった薬で瞬く間に元気を取り戻したそうな。

 また、その薬で村中の者が元気になり、みな幸せに暮らした……と変化していた。


 ホッとしたとたん、ドッと疲れが出てきた。タイムマシンでの移動は肉体に負担がかかるということだろう。

 今日はもう休もう。明日からまた新しい研究だ。

 良かった。タイムマシンを作って本当に良かった。




 はるか昔に絶滅したはずのウイルスによる感染者の数は、ようやく落ち着きを取り戻した。

 発見があと少しでも遅ければ死亡していたかもしれない第一感染者に詳しく事情を尋ねたが、いまだに正確な感染ルートは判明していない。


 また、救急隊員が到着したときに動けるはずのない患者が「どうやって自分で通報したのか」についても、謎のままである。

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