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 鬼畜のような生活をしていたオレ様は、殺されて地獄の鬼となった


 足下に転がった死体に冷笑を浴びせ、オレ様はこれまでの人生を振り返った。


「オマエなんか地獄に堕ちろ!」「人でなし!」「鬼め!」……。


 世の中にある罵声や罵倒のすべてがオレ様のためにあるようなものだった。


 そうだ、オレ様がまともに死ねるはずがない。

 地獄のどん底に突き落とされてもまだ足りないだろう。


 だから……。


 だから、こんな目にあって当然なんだ。


 オレ様は、足下に転がるオレ様の死体を眺めた。




 まあ、因果応報ってやつだな。

 オレ様だからこれが自分の死体だって分かるが、警察が調べたところでオレ様に行き着くまでかなりかかるだろう。


 それほどまでメチャクチャにされてしまっている。



 こうなるまでは死ぬほど苦しかったが……ま、本当に死んじまったんだから苦しくて当然だな。


 オレ様を恨みまくっていたんだ。まったくエゲツなかったぜ。


 こうやって死んじまったら痛みも苦しみもなくなるってのは、本当だったんだな。

 おかげで助かったぜ。


 さてオレ様はどうなるんだ?

 地獄の案内人とやらが待っているんじゃないのか?



「何をしている。さっさとこっちへ来るんだ」


 後ろから声がして振り返ると、いかにも地獄の入り口らしい暗闇が、大きく口を開けていた。


「けっ! セルフサービスかよ」


 暗くて足下も見えない、ゴツゴツした細い曲がりくねった下りの階段を何時間も、途中何度か足を踏み外しながら手探り進んでいくと、遥か彼方に明かりが揺れているのが見えた。


 さすがのオレ様でも、この光にはホッとした。




 洞穴の壁に立てかけられた松明の明かりがまたたく中で、オレ様は石の椅子に座る小柄で白髪のジジイと向き合う。


「てめえがオレ様を呼んだのか?」

「そうだ。では早速、貴様の行き先を決めてやろう」


「聞かなくても、どうせ地獄だろ?」

「いいや。貴様には地獄の鬼になってもらう」


「鬼? それはいい。オレ様にぴったりだ」

「ならさっさと行け。後ろがつかえているんだ」


 ジジイが左を指差すと、そこには、ここに来るまで通った暗闇の入り口があった。


 生きていた時のオレ様はまさに鬼畜だった。

 人から憎まれ、恨まれた挙げ句、仕返しされて殺された。

 そして死んでからは地獄の鬼となった。



 オレ様の役目は、地獄に堕ちてきた亡者どもを苦しめ、痛めつけて生前の行いを悔い改めさせることだ。

 悔い改めさせることはともかく、苦しめるのはオレ様にとって天職のようなものだ。

 あのジジイが何者か知らないが、まったくいい役目を与えてくれたものだ。


 オレ様は、くる日もくる日も亡者を痛めつけ、ひたすら苦しめ続けた。





 あれから何年たったのだろうか。



 せっかく悔い改めた奴がいても、後から後から亡者はやって来る。

 オレはいつまでこんなことをしなければならないのだろうか?




 ある時オレは、同じ鬼のつぶやきを聞いた。


 そいつは亡者に容赦ない苦痛を与えながら、涙を流して繰り返していたのだ。


「やめさせてください、お願いですから、もう鬼をやめさせてください……」





 痛めつけ、苦しめさえすれば、亡者はいつか成仏していく。


 だが鬼であるオレたちは永遠に成仏することなく、どんなにやりたくなくても亡者を苦しめ続けなければならないのだ。


 ……鬼になるとは、こういうことだったのか。





「鬼の気持ちが分からねば、鬼のような奴を許すことはできん。

 そのために現世で鬼と呼ばれ、地獄の鬼となって自らの行いを心から省みなければならん。

 その経験をしてこそ、あのような者にも慈愛に満ちた仏ごころが得られるのだからな」


 白髪の老人はため息をつく。


「とは言え、現世の鬼と呼ばれる者の周りにいる者には酷な話だ。

 だからせめて、硬く冷たい石に座して苦しみを分かち合おう。

 いつか世界が慈愛に満ちた世となるまでは……」


 老人の前に暗闇の道が開き始めている。

 新しい鬼となる者がやって来たのだ。


 憎しみに満ちた視線を老人……閻魔大王に向ける者が、王の本心を知る時が来るのかどうか……。


 ……必ず来る。


 そう信じ、今日も鬼となる役目を相手に与える。

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