片方の髭
生まれつき、顔の左側のヒゲが早く伸びることに悩まされていた。
朝剃って夕方には左側だけが黒ぐろしているほどだ。
おかげで午後に会う顧客には顔半分ヒゲの濃い人と思われている。
利点は最初の話題に不自由しないことと、その後も覚えてもらえること。
不自由なのは1日に2回ヒゲを剃らないといけないこと。
それと女の子に気味悪がられる……正直、こっちがイタイ。
永久脱毛を考えたこともあるけど、生え方そのものはカッコ良く、右半分の普通のヒゲのことを考えるとそれも惜しい。
いっそ両方伸ばして左側だけを少しずつ切りそろえようとも考えたけど、今の仕事ではそれも出来ない。
病院で検査してもらったこともあるけど、異常はまったくなかった。
定年退職を迎える頃には1日2回のヒゲ剃りは、もはや当たり前の習慣になっていた。
近所では片ヒゲのおじさんと有名になり、たまにテレビ取材もやって来る。
左側だけ伸びる原因は、あるテレビに出演した時に分かった。
私の顔の左側は母の胎内にいた頃に何かのはずみで融合してしまった、ふたごの弟とのキメラだった。
弟は、自分はココにいる、ココにいるんだと主張していたのだ。
不自由に思っていた左側だけ早く伸びるヒゲは、私の人生を豊かに、幸せを運んでくれていた幸福のヒゲだったというわけだ。
この歳になってやっと出会えた弟のためにも、そうあってほしい。




