水筒のゾウ
“ひょうたんからコマ”ということわざがあるのは知ってる。
だけど、ボクが遠足に持って行った水筒から出てきたのは、ゾウだった。
どうしていいか分からずにあわてて水筒に戻したけど、なんだか誰かに話すと消えてしまうような気がして、誰にもだまっていることにした。
いちばん困ったのはノドがかわいてしかたなくって、少しでも水が飲めるところがあるとガブガブ飲んで、なんとかうちまで帰ることができた。
うちにはいつもどおり誰もいなくて、レンジで温めればすぐに食べられるよう晩ご飯が用意してある。
だけど、今日は水筒の中にいるゾウが気になってしょうがない。
さっそくフタをあけると、小さな小さなゾウがノッシノッシと中から出てきた。
そうして、鼻を大きく振り上げて、まるでボクに挨拶してくれたみたいだった。
ボクは嬉しくなって晩ご飯にあったトマトを小さく切ってゾウにあげると、ゾウは美味しそうに食べた。
ボクは水筒から出てきたゾウを“スイゾー”と名づけて、机の引き出しで飼うことにした。
スイゾーが来てくれてからボクは毎日うちに帰るのが楽しくてしょうがなくなった。
言葉は通じなくてもスイゾーの気持ちは分かったし、スイゾーもボクの気持ちをよく分かってくれた。
ところがある日うちに帰ると、スイゾーはグッタリしていた。
どうしよう!?
スイゾーのことは誰にも話していない秘密なんだ。
だけど、このままだとスイゾーが死んでしまう。
ボクは迷ったすえに、お父さんに相談することにした。
だけど、お父さんはボクの話を作り話だと思ってぜんぜん取り合ってくれず、お母さんに話すと今は忙しいからあとにしてと、話を聞いてくれない。
ボクは水をあげたり、体をさすったりしかほかにどうすれば分からないまま、その晩スイゾーは死んでしまった。
ベッドにもぐって思い切り泣いたけど、お父さんもお母さんも来てはくれなかった。
次の日は学校を休んで、近くの公園にある大きな木の根元に、小さなスイゾーを埋めた。
またあの水筒からスイゾーが出てくるんじゃないかと思い、何度かフタをあけたりもしたけど、やっぱりスイゾーが出てくることは二度となかった。
今ではスイゾーが本当にいたのか、それとも一人ぼっちのうちがイヤで、そんな友だちがいるんだと現実と想像がごっちゃになっていたのかも知れない。
ただひとつ言えるのは、ボクが大人になって子どもが出来てもボクみたいに寂しい思いは決してさせないようにしようと思う。
そのことを忘れないために、あの水筒は今も大切な宝物として残してる。
「紛失届け書かなきゃならないな……」
「まいったなあ……」
はるか遠い昔に絶滅した動物を現代に蘇らせるため、その時代の人間に怪しまれないよう偽装したミニミニボックスと、ただの水筒を取り違えてしまった職員2人には、
2カ月間の減棒処分が待っている。




