黒き輝き
数年に1度開かれる、各国の経済界のトップしか参加が許されない『世界経済会議』が開かれていた。
「今回も、うまく大衆を乗せましたな」
「まったく。地球や環境に優しいというフレーズは反論の余地がありませんからなあ」
彼らは最近の儲け話を楽しんでいた。
「いやはやCO2を計測する機器のほとんどが北半球の都心部に設置してあるのだから、数値など増えて当然ですよ」
「研究などしょせん我々からの資金提供のもとでしかできないのだから、CO2が関係ないなど自分の首を絞める発表などできる者はいないですからな」
「我々スポンサーに寄生しているマスコミに至っては、反対はもとより、反対意見そのものを流せるはずがない」
「それにしても、温暖化の犯人に仕立て上げたCO2と、オゾン層破壊のフロンガスはまったくの別物であるにもかかわらず、区別できずにいる大衆のなんと多いことか」
「しょせん頭を使わない大衆なんぞ、その程度でしょう。
そうさせたのは、他ならぬ我々ですがね」
爆笑する彼らの笑顔は歪んでいた。
「皆さん。そろそろ本題に移りたいと思います。
ご存知のようにエコによる消費は飽きっぽい大衆の“興味が薄れたため”限界に達しています。
今後、『環境に優しい』に替わる次世代の消費誘導策と方向性を探らなければなりません。
何か意見や提案のある方はおられませんか?」
代表者が問いかけると、数人が手をあげる。
「今後の経済は中国にシフトするのだから、人民の購買意欲をそそるものでなければ」
「それなら少数の富裕層ではなく、今は下層に位置する圧倒的多数の人民を確保しておけば、今後の経済成長とともに底上げされて、巨大な市場となる」
「そんな戦略など何年も前から始まっている」
「ゴビ砂漠すべてを緑化すれば、市場は倍加するのでは?
その技術をアフリカをはじめとする各国に広げていけば」
「砂漠の緑化はすでに使い古された企画だ。
そもそも緑化のための技術や金はどこから出すのかね?」
「それこそ新たな環境問題として世界に宣伝すればいい」
「もう大衆はエコに飽きたと言っているだろう。
そんな二番煎じには誰も飛びつかんよ」
いくら彼らでも、地球規模で行うキャンペーンのアイデアはなかなか思いつかない。
「もっと単純に考えましょうよ」
ある大物が口を開いた。
「大衆なんてのは分かりやすくて自分に都合がよく、大義名分が掲げられれば何も考えずに飛びつきます。考えさせず、手軽で、楽しめる。
これさえ満たしてやればいいわけですよ」
「それはいったい何かね?」
「大衆がエコに飽きた……つまり節約にうんざりしてるって証拠ですよ。
だったら、次は思い切り贅沢させてやればいい。
とは言え、いきなり高額な商品を買えというのではありません……」
―――これまで環境は『保護』の名目で甘やかされ続けていた。
今日の環境は、この保護によって地球がわがまま、軟弱になってしまったのだとする。
そこで、ライオンがかわいい我が子を千尋の谷に突き落とすように、また、かわいい子には旅をさせるように、地球を鍛え直さなければならない―――
これを受け、学者やマスコミは、地球の環境を元どおりに安定させるには地球を甘やかしてはならないと競って発表し、書き立てた。
多くの人々は学者の論文を信じ、マスコミの言葉を鵜呑みにして、次々開発される『鍛』や『スパルタ』といった新製品を我れ先に買い求めた。
そして環境を悪化させることが地球に良いものと信じて、ひたすら“毒”をたれ流し続けたのだ。
「……こうして人間はその後、50年もたたないうちに、たくさんの生き物を道連れにして絶滅してしまったのです。
私たちの先祖はそのような厳しい環境の中で耐え忍び、今日の地球において最も進化して文明を築き上げるに至りました。
私たちは人間のおかした間違いの轍を踏むことなく、地球の環境に順応して生きていかなければなりませんし、また、それが出来る種族なのです」
講師の先生の話がやっと終わって、僕は学校を飛び出した。
僕にとって滅んでしまった生き物なんて興味ない。
環境がどれだけ変わっても適応すればいいだけだし、まして少子化なんてあり得ない。
そんなことより、今日こそは黒々とした羽とたおやかな触覚がステキなあの子に、バイトで稼いだお金で買ったプレゼントをあげて、僕の卵を産んでもらえるようがんばるんだ。
地球はこれからも僕たちゴキ・ブリピエンスによって美しく、油に満ちた世界を築き上げていくんだ。




