集中治療室にて
わしは子どもの頃から自分が感じた痛みを他人にそっくり移すことができた。
だが、ただ痛みを移せるのじゃなく、相手が痛みを確認してくれた時に限り移せたのだ。例えば、わしがタンスの角に小指をぶつけて、どれくらい痛いか誰かに尋ねられて「こんぐらい痛え」と答えると、相手が同じ痛みを感じるちゅうわけだ。
一番迷惑をかけたのは母親だろう。
痛みを伝えてしまうっちゅう意味が分からんかったころ、なんべん痛みを伝えてしまったことか。
そんでも母親は年取ってから「我が子とおんなじ痛みを味わったんは世界中で私しかいねえ」と繰り返しとったから、少しは許してくれていたんかもしれねえ。
これはテレパシーの一種なんだろう。調べたところで分かるはずもねえ。
この能力のおかげでたくさんの人に迷惑をかけてきたが、相手に痛みが伝えることで、わしが救われ、相手も理解してくれることもあった。
親友とも痛みを分かち合った。奴とは本当の親友だ。
息子には幼いうちから人の痛みが分かるよう育てたつもりだし、成人して社会人となった姿を見ても、それは間違ってなかったと信じとる。
……今になって、わしの奇妙な能力の記憶がいっぺんに蘇ってきよった。
耳元で誰かが大声で叫んどる。
ここは病院の集中治療室か? そういえば横断歩道を渡っとって、左折してきたトラックに巻き込まれた記憶がある。
死にかけのわしに向かって、医者や看護師が声をかけてくれとる。
やめるんじゃ、でないとおぬしらまで。
なのに……彼らは……次々と……




