黄梁一炊の夢
なにもない白い部屋。
さっきまでお母さんと一緒にいたはずなのに、気がついたらこの部屋に連れてこられてた。
ここはどこだろう?
「お母さ~ん」
返事はない。
「お母さ~ん!」
やっぱり返事してくれない。
「お母さん! お母さんどこ! ボクここにいるよ!」
いくら呼んでも、お母さんは返事をしてくれない。
「そこにいるのか?」
この声はお兄ちゃんだ!
「お兄ちゃんどこ? ここどこなの?」
「分からない。オレも気がついたらお母さんとはぐれてた。大丈夫か? ケガはないか?」
「う、うん。大丈夫みたい」
お兄ちゃんが近くにいてくれて、とっても安心したけど、それでもここがどこか分からないまま、何日か過ぎた。
飲み物やごはんは、部屋にあった丸い小さな穴からもらえたけど、トイレは部屋のすみにしなくちゃならなくて、臭いニオイがつらい。
ある日、お兄ちゃんがいる部屋のほうから、悲鳴が聞こえてきた。
「痛いよ、痛い! 離して! 助けて!」
「お兄ちゃん! どうしたの? 大丈夫? お兄ちゃん!」
だけど、それっきり声はしなくなった。
どうしたんだろう。
怖い。
怖い。
その日はお兄ちゃんが帰ってくるのをずっと待ってたけど、いつまでたっても帰ってこない。
お兄ちゃん、どうなったんだろう?
お母さんはどうしたんだろう?
何日たってもお兄ちゃんは帰ってこないし、お母さんがどうなったのかも分からない。
ボク、なにか悪いことしたのかな?
もう悪いことはしません。
ずっとずっといい子でいます。
だからもう一度、お兄ちゃんとお母さんに会わせてください。
どうか、どうかお願いします。
「今度はこいつにしようか」
目が覚めると、白い服をきた人がボクを見ながら手を差し出してた。
だけどそれは、助けてくれる手なんかじゃない。
助けて!
助けて!
助けて!
必死で逃げたかったけど、白い部屋からは逃げられなくて、ボクはすぐに白い服の人につかまり、無理やり体をつかまれ、持ち上げられた。
「痛いよ、痛い! 離して! 助けて!」
「今日は新入生のための基礎知識として、マウスの解剖をします」
白い服の人たちの前で話す人が、なにか言ってるけど、ボクには分からない。
「なあ、麻酔しなくていいのか?」
「いらないだろう。どうせこいつ死ぬんだから」
白い服の人が、ボクの手足を固定して鋭いメスをかざす。
イヤだ!
助けて!
痛い!
痛い、痛いよお!
「これこれ、マウスは大切にしなさい。
君たちの単位習得のための尊い犠牲になってくれるのだから」
前で話してた人が言ったことが、なんなのかは分からないけれど、白い服の人が大きな注射を打って……。
刺さった針は死にそうなくらい痛かったけど、だんだん痛みがなくなってきた。
お母さんも、お兄ちゃんもこんな目にあったのかなあ。
だったらボクも、もうすぐ2人に会えるかなあ……。
「そんな夢を見たんだ」
「なんだそれ? 勉強もしないくせに、夜更かししすぎじゃねえの?」
「ふわあ~、そうかもな。
ねむい、今日は解剖の研修?」
「ああ、マウスの解剖だってよ」
「そうだったな。オレ今年、ウミガメの解体のバイトやったんだ。あれってマウスとほとんど同じ位置に内臓があるんだぜ。
今さらマウスの内臓の位置確認したって、人間とは違うんだからつまんねえだけだな」
やがて、文句を言っていた学生の机にも、一匹のマウスが連れてこられる。
「悪りい。オレ、今回パスする」
「なんだ、怖いのか?」
「さっきの夢が悪かったみたいだ。
ブルブル震えてるこいつが、お母さ~んとか言ってるようでやりづらい」
「考え過ぎだって」
一人がそう言って教室から出て行ったあと、単位獲得のためと割り切った者たちは、躊躇しながらも鋭いメスをマウスの腹に突き立てる。
もともとこの星に暮らしていたマウスたちが使用していた年号に換算すれば、西暦3249年。
地球は巨大な異星人の支配下におかれていた。




