快適な船旅
ついに光速宇宙船が開発された。
安全性が何度も確認され、実用化のニュースに人々は新しい宇宙時代の幕開けの期待を寄せたが、発表された宇宙船の定員はわずか5名であり、しかも太陽系を1年かけて1周するだけのコースの料金が発表されると、人々はガックリ肩を落とした。
しかし、今日も光速宇宙船は出発する。
乗客名簿は完全に秘密が守られ、どんな人物が乗っているか発表されることはない。
「今日も満席だな」
安定飛行に移った宇宙船のコックピットで、緊張を解いた船長がつぶやく。
「そりゃあそうです。光速で移動する宇宙船内は時間が引き伸ばされるんですから。
仮に地球での10年を船内の1年とすれば、長生きしたい金持ちなら先を争って何度も乗りますよ。
1年間のんびり豪華旅行を楽しんで帰ってくれば、出発した時代より10年進んだ医療や美容整形が受けられるんですから」
「そうだな」
答える副船長に返事をしながらモニターに目を向けると、豪華客船並みの船内には世界的な大富豪たちが、スタッフとは名ばかりのホスト・ホステスたちを相手に旅を存分に満喫している。
「この光速宇宙船も、最初からこの目的で造ったんじゃないですか?」
「それは分からない。我々はただこの航海を安全で快適なものにすることに全力を傾けるだけだ」
笑ってうなずく副船長に船長も微笑みを返す。
……安全性が保証されているとはいえ、まだまだ初期実験ともいえる段階で一般市民を巻き込むことなどできないんだ。
進路を確認しながら、船長は先ほどとは違う笑みを浮かべる。
……だが、彼ら大富豪たちはこれまで市民の何倍もいい思いをしてきたうえ、成功すれば限りない健康長寿を手にすることができる。そのため多少の危険を冒してでもこの宇宙船に乗りたがるんだ。まあ、本当に冒険と考えているかどうかは疑問だが。
そのおかげで莫大な実験……いや、運営資金を提供してくれているんだ。万が一失敗しても出発前に高額の保険に加入しているため損はない。
彼らには期待と希望を、我々にはデータと資金を、だ。
我々乗組員全員がロボットだなんて、想像すらしていないのだろうな。




