1969年7月の足跡
月面着陸から半世紀以上を経て、再び月面に足を降ろした宇宙飛行士の報告によって、地上の基地は騒然となった。
緊急会議が極秘で開かれたが、何の案件も出ないまま時間だけが過ぎていく。
「……これまで、ずっと世界中の人々をだましてきたということではないか!」
「大体、アポロ計画自体がインチキだったのではないのか?」
「違う! あれは現実に行われたのだ!」
苛立たしさから、過去の問題を蒸し返す意見が繰り返された。
「……仕方あるまい、真実を話そう」
長官が立ち上がると、全員の視線が集中する。
「あの時の映像は本物であり、また、ニセ物であります……」
1969年当時は熾烈な宇宙開発競争が行われ、計画は国の威信にかけて絶対に成功させなければならないものであった。
そこで、実際に宇宙飛行士を送る一方で、万が一のために地上で撮影したものを織り交ぜて発表したのだという。
安全性を考えるのならば、地上だけで撮った映像を放送するという方法もあったが、すぐあとに競争相手の国が“本当に”月面着陸を成し遂げてしまうという危惧があり、その時にこちらが打ち上げたはずの月面車などの機械が残されていなければウソだということがバレてしまいかねない。
それは絶対に避けなければならない。
冷戦という時代背景と、テレビの普及により世界中が証言者として見守る中で、国として保険をかけるのは当然のことだったのだ。
「……国家による情報戦略が必要か否かは、皆さんがよくご存知でしょう?」
長官が一同を見渡すと、誰もが納得せざるを得ないという表情だった。
「では、改めて今回の件を。今我々が考えなければならないのは、こちらの問題のほうです!!」
月から送られてきた映像が前方のスクリーンに大きく映し出される。
「こんな荒唐無稽なことなどありません。このまま大衆をだまし通せばよいのでは?」
「しかし、画像解析が進んだ現在で、一般の誰かが気づく可能性は極めて高い」
「半世紀以上、誰もが見間違っていたんだ。もし気づいたとしても自ら否定するに違いない」
堂々巡りの発言だが、彼らの結論は最初から決まっている。
“何も見なかったことにすること”
“ミステリーのまま放置すること”
一体誰が信じるというのだ?
そもそもなぜ“コレ”がこんなところにあるというのだろうか?
アポロ11号の宇宙飛行士が月面に残したブーツの足跡とされていた写真が、2億5000万年前に絶滅した三葉虫の化石であったなどとは。




