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オシャレな家

 最近、結婚して新居を構えたばかりの親しい同僚の様子がおかしい。

 まだ幸せいっぱいの時期なのに、すっかりやつれている。

 奥さんと何かあったのか尋ねると「何もない。むしろ心配なんだ」と言う。

 詳しく尋ねると、他の者には言わないようにと話してくれたのは……。


「幽霊が出る」と言うのだ。

 にわかには信じられなかったが、真剣な表情からウソをついているようには見えない。


 次の休日。

 奥さんとは結婚前から知り合いだったとはいえ、初めて新居を訪ねた。住所を便りに到着したそこは、ボクと同年代の若い世代中心の新興住宅地だ。

 門柱や垣根に鉄道の廃材の枕木を利用してあったりと、オシャレな雰囲気をかもし出している。同僚の家もその一つだった。

 チャイムを鳴らして出てきた奥さんは、すっかりやつれ果てている。正直、同僚の話はマユツバに聞いていたが、この様子はただ事じゃない。

 手土産もそこそこに、2人の話を聞くと……毎晩11時54分に、庭から“ドーン!”と音がした直後、血まみれの見知らぬ男が床を這いずり回るというのだ。

 おかげで生活はメチャクチャ。不動産屋に訴えてもまともな返答はなく、知り合いの坊主に頼んでも治まらなかったそうだ。本当ならボクに何かできるはずもない。

 話を聞いて、早々に立ち去りたかったけど、2人にどんなものか泊まって一緒に見てくれと懇願され、シブシブ引き受けることにした。

 恐さを紛らわすため3人で飲んでいるうちに、幽霊のことなんかすっかり忘れて盛り上がった。ところが……


 ドーン!!


 庭から音が響いたとたん、一気に酔いが醒めた。


 ……ズッ

 ……ズルッ

 ……ズルズズッ


 ギイッ

 ひとりでにキッチンのドアが開き、血まみれの男が異様な顔つきで床を這いずっている。

 ソファーに飛び乗ったボクは、堅く目をつぶり、足下を這う男が出て行くのを震えながら待つしかなかった。

 恐かった。ハンパなく恐かった。

 毎晩あんなものが出るなんて……しかも、夫婦の寝室にまで来るなんて、耐えられない。

 同僚と奥さんのやつれた顔が、身をもって実感できた。


 あれから数日後、奥さんはいったん実家に戻ることになった。同僚は通勤の都合やローンのこともあって、あの家から通っている。

 精神を破綻させずにいるのは、奥さんのためと、ボクが理解者となっていることも少しは関係あるのだろうか?

 ボクはネットや知り合いのツテを借りて、なんとかできないか探し続けた。

 ある日、都市伝説とは違う、気になるHPを見つけた。同僚の家とも関係あるかもしれない。

 見つけたHPを見せ、休みの日に一緒に調べる約束をした。


 やがて、あの家に血まみれの男が出ることはなくなった。奥さんも戻ってきて、ようやく幸せな日々を手に入れてくれたようで、ボクもホッとしている。来年の初めには子供も生まれる予定だ。

 もしボクが結婚して、新居を手に入れることがあっても、絶対にあれを使うことはない。大量の廃材の中にはそういうのも混ざってしまうんだろう。ドーンという音が、事故なのか自殺なのかは、分からない。

 同僚のオシャレな家の門柱に使われていた大量の鉄道の枕木には、あの男の血がしみ込んでいたのだ。

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