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ウラ無い幸福

 首に巻きついてきたものを手ではらった男は、再び寒さに襲われたが、なぜそうなったのか理解できずにいた。


 今は氷河期の真っただ中。

 人間になるにはまだ遠い、類人猿が地上を歩きまわっている時代だ。


 男の名はテモオ。

 仲間からそう呼ばれているうちにそれが呼び名になった。

 テモオは狩りが苦手で狩りには参加せず、野山に分け入って食べ物を見つけて生活している。

 そのためいつも1人ぼっちだ。

 おかげで仲間が怖がって入ろうとしない山奥まで入ることができたが、仲間はテモオを臆病者だと思っている。


 首に巻きついたものを捨てたことと、急に寒くなったことが結び付けられないテモオだったが、捨てたものを拾うとそれは乾いた動物の毛皮だった。

 テモオは言葉ではない喜びをあげた。

 狩りをしないテモオにとって毛皮は仲間から分けてもらえない貴重品であり、いま腰に巻いている毛皮でさえ親から分け与えられた大事な1枚だ。

 ……今日はこっちに来て良かった。

 誰にも取られないよう頭からしっかりかぶると、また温かさが戻ってきた。

 その時、初めてテモオの頭の中で毛皮と温かさが結び付く。

 テモオはまた叫び声をあげる。

 毛皮を首に巻くとこんなに温かくなるんだ。

 こんなこと、まだ仲間の誰もやっていないぞ。

 寒さを防ぐ術を得て長時間食べ物を探せたテモオは、いつもより多く見つけることができた。

 寝ぐらに戻ったテモオは、今日は特別な日だったと確信した。


 特別な日だったから毛皮を拾えたのか?

 だったらどうして特別な日になったのだろうか?

 今朝はいつもと違うところに小便をしたからか?

 それとも寝ぐら近くにある3本の木に触ったからか?

 想像を巡らせながら、テモオは眠りについた。

 次の日の朝、テモオは思い出せる限り昨日と同じことをして食べ物探しに出かけた。

 途中で丘の向こうに大きな獣を見かけたがテモオには気づかず、また昨日と同じくらい食べ物を見つけることができた。

 次の日はあまりの寒さに出かけるのが遅くなり、昨日と同じことの半分しかできずに食べ物探しに出かけたところ、あまり見つけることは出来なかった。


 ……やはり同じことをしなければならないんだ。


 テモオは少ない食べ物をかじりながら後悔した。

 ところが、次の朝テモオは同じことの後ろ半分だけをすればどうなるか気になり、そのとおりにして出かけてみた。

 するとどうだろう。

 一昨日よりもたくさん食べ物を見つけることが出来たではないか。

 探す時間が伸びただけのことに気づかないテモオには大発見だった。

 こうしてテモオはどうすれば今日が特別な日になるか試し続け、仲間たちにも発見した方法を教え、徐々に広がっていった。


 テレビから今日1日の運勢がフリップで伝えられる。

 チャンネルを変えるとそこではテロップで流されていた。

 ネットからはいつでも引き出せ、新聞、雑誌にも当たり前のように載っている。


 テモオの思いつきと気まぐれは、今なお人々にちょっぴりの幸せを与え続けている。

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