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とか

「腹減ったな」

 僕の言葉に一緒にゲームをやるために集まった友人がうなずく。

 さいわい僕のウチには実家から送られてきた食材が色々とあり、早めに食べてしまいたかったのもある。だから作るものは何でも良かった。

「なに作る?」

 僕以外に部屋にいる友人は男と女の二人で、彼らとはあくまでゲーム仲間にしか過ぎない。三人でカレーだ、ラーメンだ、若鶏の丸焼きディアボラ風ソースだなどと盛り上がった。

 何故、鶏肉が丸一羽分あるのかは秘密だが、三人で色々と案を出して見たもののどれもいまいちピンとこない。いや、こないと言うよりも実際のところ本当にその料理を作るのか? と問われたら、正直めんどくさい。

「あ~だったらあれ、うどん、で、どうかな?」

 朝から一人黙々とパズドラを続けていた彼女がぽつりとつぶやく。

 そう! ツルツルシコシコでモッチリとコシのある麺を勢いよくズルズルズル~っとすするあの爽快感。噛む時の歯に食いつく高揚感。少し薄めのだし汁を飲み干す頃には、身も心も満足するあの食べ物だ。

 僕が唾を飲み込むと、彼女は携帯をテーブルに静かに置いて言葉を繋げた。

「どうせなら、究極を目指しましょう」


 なっ!


「きっ、究極だと!?」

 彼も同じ思いだったようだ。

「幸い、うどんの汁は私の実家のレシピがあるのよ」

「そうかっ!」

「……どういう事だ?」

 僕の問いかけに、彼は何もかも悟っているかのように続ける。

「こいつのオヤジさんは大の麺好きでな、うどんだけじゃない……あらゆる麺料理をこなせるよう、厨房にはいつも豚骨とブイヨンがぐらぐら言ってるんだよ」

 僕は驚愕した。

 彼女はそんな家庭に生まれ育ったのか! じゃあ、うどんも一人で作ってくれよっ!


「オホン。ともかく、そういう事なら汁は問題ないな」

「そうね、次はうどんそのものだけれど、誇大広告にあるような、ただ単に打ち立てなんてものじゃ話にならないの……」

「フッフッフ……。それなら大丈夫だ」

 彼はそう言うと、流しの下の戸を開けて何かを取り出した。

「実はこういうことのあろうかと、昨日のうちに俺が打っておいた麺がここがある」

「何故だ!?」

 昨日、僕と一緒に一緒に徹夜でゲームやってたよな、お前!? いや、それ以前に人ン家にきてなにしてんだよ? 彼女はゆっくりとラップにくるまれたうどん種

たね

をつつき、不敵な笑みを浮かべている。

「フフッ……やるわね」

「へへっ、まあな」

 何、照れてやがる。


「さて、後は具ね」

「ああ、これで一体何うどんになるかが決まるわけだ」と言われて、僕はそれならと声をあげた。

「あっ! じゃあ野菜と海産物が結構あるから天ぷらうどんにしようか?」

 その提案に二人は「仕様がないやつだ」と言わんばかりの笑みを浮かべた。

「取っときたいのは分かるが、俺は知ってるぜ? お前の実家が豆腐屋で、とくに油揚げは絶品だってこと」

 何故、今、それを自慢げに言う?


「ならば当然、きつねうどんに決まりだろう!」

「ふっ甘いわね」

「なにっ! どういうことだ!」お前らのその熱のこもりようはどういうことだ?

「確かにその油揚げは絶品だけど、果たしてうどんに合うものかしら?」

「はっ!」

 いや、大丈夫だろ?

「それよりも彼の実家の特産品、比内地鶏の鶏肉と卵を使った親子うどんの方が美味しい筈よ」

 僕の実家は千葉で、それはおじさんが潰したブロイラーです。

「……くっ! だがその鶏肉と卵、鮮度において油揚げに劣る! ここはやはりきつねうどんだ!」

「食材の鮮度の差が、料理の決定的な差で無いことを教えてあげましょうか?」

「も~どっちでもいいよ! あんまりうるさいと、かけうどんにするよ!」

 次の瞬間、二人は……。


「違うわよ! 私は究極のが食べたいのよ!」

 どう違うっていうんだ?

「しかしシンプルイズベストという点においては、やはりきつねうどんに軍配が上がるだろう」

「いいえ、シンプルを目指すなら彼の言った通り、かけうどんにするべきだわ。でもそれは、あなた自身が否定したんじゃない?」

「うっ、仕方あるまい。今回のところはきつねうどんは諦めよう。だが、みすみすこれほどの油揚げを使わない手はあるまい」

「それは確かに一理あるわね。いいわ。鶏肉の鮮度を補う意味でも油揚げは使いましょう。そうなると後味をさっぱりさせるために必要なのはあれね」

「あれだな」

 そう言いながら二人は、送られてきたまま野菜をぶちこんである段ボールを探る。もう好きにしてくれ。

「あったわ。これは九条ネギね」

「下仁田ネギのコクもいいが、すっきり感を演出するには打ってつけか!」

 いやいや、それはここの大家さんが趣味で栽培しているのをいただいた、ただの万能ネギです。

「役者はそろったな」

「じゃあ、そろそろ始めましょうか」

 あー分った。もうお前たち二人で究極のうどんとやらを作ってくれ。


「何をしているんだ? ここからがお前の出番だろう」

「そうよ。隠しても無駄よ。昨日、冷蔵庫の中を見て確信したわ。あなたがうどんに対して相当なこだわりがあるのを。でないと私たちがこれだけのものを用意できて、究極を目指すなんて言い切れるはずないでしょう? それとも、私たちを試したのかしら?」

 彼女が指すその先には、汁を作るために使う、煮干しや鰹のための「六甲○おいしい水」と昆布用の「南アルプス○天然水」があった。

「俺が種

たね

を作るのに使ったのはこれだ」

 その手には「ボル○ィック」と書かれた空になったペットボトルがある。


「ふっふっふ。そういうことなら仕方あるまい」

 僕は腕まくりをして、ウチで一番大きなナベに「龍泉洞○水」と書かれたペットボトルから水をなみなみと注ぐ。

 そうだ。うどんは使う水によって大きく味を変える。その硬度が味を大きく左右するんだ。

 生地を練る、素材に対し最適な出汁をとる、それに麺を茹でる。それぞれに適した硬度の水を使うことで、初めて究極のうどんとなり得るのだ。

 そして、その硬度に最も適した水が彼らのいうペットボトルの水なんだ。


 僕たちは協力してうどんを作り上げたのだった。こだわりの具には、油揚げのキザミを加えた親子に、ざく切りのネギを乗せたものとなった。

 このままご飯に乗せても、充分満足のいく、まさに究極の逸品と言えるだろう。


「最後に忘れちゃいけないのが『七味』だな。七味と言えばやはり東京浅草の“やげん堀”だな」

「いや、京都清水の“七味屋本舗”だろう」

「実は私、大阪“四天王寺”の七味唐辛子が好きなの」

 かぐわしい湯気をあげるドンブリを前に、僕たちはたがいに目配せし、汁をズズッと飲み、茹でたての麺をズゾッとすすった。


「……いやあ、普通~」

「美味しいっていえば美味しいけど、普通ねえ」

「今回のはまあまあだな」

 そりゃそうだ。たいそうなことを言ったが、材料は全部ごく普通のやつだし、水は冷やしておくために、ばらばらの銘柄のペットボトルに入れただけの水道水だ。

「さて、メシも食ったしゲームの続きでもするか」

 彼がコントローラーを手にする隣で、彼女はもう携帯ゲームに向かっていた。僕も彼の横で艦コレの続きを始める。

「なあ、夕飯はどうする?」

 彼がボソッとつぶやくと、彼女が携帯ゲームに視線を向けたまま、


「じゃあ今度は至高とかで」

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