アレルギー
ひどいクシャミと鼻水の音が研究室に響く。
ここは恐竜絶滅の原因を研究する施設の一室。
部屋には2人。
フィールドワークで集めた資料の整理を進めている。
2人はひどい花粉症のため、この時期はデスクワーク中心に研究している。
クリーン設計の室内にいても、1人はくしゃみが、もう1人は鼻水が止まらない。
「クショッ! あ~頭がぼーっとする。資料にツバつけるわけに……クショッ! いかないからなぁ」
「ああ、それに熱っぽい。薬飲んでるどに、でんでん効いでる気がしない……チーン!」
「やな季節だよクショッ!」
「オレ4年前まで花粉症じゃなかっだどに……チーン!」
「毎年、花粉の量が増えてクショッ! 許容量を超えたとたんクショッ! 発症するらしいけどクショッ!」
「じゃあ、こでからますますオレだちみだいなのが増えるのか?……チーン! 仲間が増えるみたいでホッどずる……チーン!」
「そういえば今日の花粉は……クショッ! どうなんだろう」
ネットで花粉予報を見ると、昨日にも増して飛散している。
「クショッ! うわ、見なきゃよかった」
「……チーン! ヒドイなあ、この時期が終わっても別の花粉が待っでやがる。1年中花粉だらけざ……チーン!」
「まったくだ。クショッ! クショッ! クショッ! それはそうと、最近やたら地震多くなったな」
「ああ、地球のあちこちで活断層が活発になってるんだろ……チーン!」
「ネットのクショッ! あっちこっちで大地震が近いとかクショッ! うわさになってるぜ」
「素人のうばさを信じるのかよ、科学者らじく……チーン! ないな」
「そりゃそうクショッ! だなクショッ! 俺たちの悩みは当面クショッ! こっちのクショッ! ほうだ」
「ぞうだな、このあいだ……チーン! 掘り出した絶滅直前まで生きてた恐竜の資料もぜいり……チーン! したい」
「大切なクショッ! 資料に鼻水つけるなクショッ! よ」
「……チーン! 分かってるよ。チューブつけながだでも、あ……垂れた」
「資料はクショッ! 汚すなよ!」
2人の研究は花粉との戦いだった。
「今さらなんだがクショッ! 恐竜って何で絶滅したのかなあ」
「俺たちはそれを解明するこどが……チーン!、仕事だろう」
「クショッ! そうなんだが、解明するほど新しいナゾにぶつかる繰り返しだ。いったいクショッ! どこまで解明すればいいか分からなくなる」
「いいんだよ。俺たちに解明でぎなくでも、俺だちの……チーン! 研究を礎にして将来の研究者がひぎづいで……チーン! くれると考えれば、少しは気が楽になる」
「俺はクショッ! 俺が解明したいなクショッ!」
「ホントは俺もそうだ……チーン!」
その時、ゴオオオォという地鳴りとともに地震が起こり、研究室はミシミシ揺れ、棚にあった資料のいくつかが床に落ちた。
「……今のは、けっこう大きかったな」
「ネットで情報見よう」
すると、規模は大きかったが津波の心配はなく、被害状況はまだ分かっていないようだ。
「起こってすぐだからクショッ! まだ被害なんて分からないだろうけど……」
「とにかく何もなげればいいな」
「ああ……。恐竜の時代も火山性の地震が頻発クショッ! してたよな。不安だったろうな」
「そりゃそうだろう、地震の上に噴火だんだ。原因が分かっている人間でもこばいよ……チーン!」
「年々多くなっているよな。地震だけでなクショ! 台風も大型化してるし。恐竜もひどくストレスだったろうクショッ!」
「でも種族として1億年以上生ぎ抜いた。絶滅の原因どは考え……チーン! られない」
「一因とはクショッ! 考えられないか?」
「そんな弱い種族ならとっくに滅んでいる……チーン!」
「そりゃそうかクショッ!」
残念だが彼らには、そしてその後の人類には、ついに恐竜が絶滅した理由を解き明かすことは出来なかった。
あれから数年たったある日、人類は地球規模の天変地異に襲われたのだ。
未曽有の大地震、台風、大洪水……。
あれほど隆盛を誇った人類の幕引きは、あまりにもあっけなかった。
時は過ぎ、生命はその力強さを取り戻していた。
地上は、また生き物の活気で満ちあふれている。
その中に、人類がいた地位を獲得した生き物がいた。
彼らはかつて人類がいたことも、恐竜がいたことも知っている。
……その滅びた原因も。
恐竜も人間も増えすぎたのだ。
地球の許容量を超えて、くしゃみ、鼻水を起こすほどに。




